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レビューインデックス(50音順)

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河合晴信『政治がつむぎだす日常』


 副題は「東ドイツの余暇と「ふつうの人びと」」。
 私的空間のみにおいて政治的議論が可能であったとする従来の東ドイツ理解に対して、本書では余暇という私的問題にも政府が関わらざるを得ず、その結果私的問題を政府に訴えること自体が政治的であったと主張している。

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川喜多敦子『東欧からのドイツ人の「追放」』


 副題は「二〇世紀の住民移動の歴史のなかで」。
 第二次世界大戦末期、ドイツ東部から東欧にかけての地域において、自主的避難、報復的や憎悪による追放を含め、ドイツ人の大規模な住民移動が発生し、また戦後連合国側の取り決めによってドイツ系住民がドイツへと強制移住させられるところとなった。ドイツで「追放」と呼ばれるこの一連の出来事についてまとめたのが本書である。

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近況・新刊情報と最近読んだ本など

 一部読書家界隈では劉慈欣『三体』というSF小説が話題になっています。本格SFは『華竜の宮』以来ですが、気になったので読んでみました。

 文革で、ある理論物理学者が惨殺されるシーンから始まるショッキングな開幕で、三体問題がキーになりつつ話が進行していく展開。色々な自然科学用語も出てきますが、特に意味が取りにくいということもなく非常に面白く読めました。続編もあるそうで、邦訳が待たれるところ。ただ、中盤以降で明らかになるある事実が帯に書いてあって、販促のためとは言えネタバレじゃねえかみたいな感想が脳裏をよぎったのも事実。
 なんにせよ、面白い本なのでおすすめです。

 また、16世紀フィレンツェを舞台に女流画家を主人公としたマンガ、『アルテ』がアニメ化されるようです。原作が好きなので楽しみにしているのですが、原作の絵の情報密度が高いので作画がなかなか大変になりそうな気がします。『将国のアルタイル』の二の轍を踏むことはないように願いたいところ。アニメ公式サイトはこちらです。

 さて、新刊情報。
 角川選書8月、黒田基樹『戦国大名・伊勢宗瑞』。角川選書の評伝単発ものは割といい本が多いので要チェック。著者は黒田先生ですし安心でしょう。
 中公新書8月、和田裕弘『織田信忠――天下人の嫡男』。信忠は割と興味深い人物ではあるのですが、新書一冊分だけ書けることがあるのか気になります。同じく中公新書から中野等著『太閤検地』。
 同9月、滝川幸司『菅原道真――学者政治家の栄光と没落』。
 京都大学学術出版会8月、プルタルコス『英雄伝』の第五巻。アレクサンドロスやデモステネスが収録されている巻となります。
 角川新書9月、大西泰正『「豊臣政権の貴公子」宇喜多秀家』。
 中公文庫9月にはミシュレの『ジャンヌ・ダルク』が収録されるようです。訳者は森井真、田代葆両氏。

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ツァラトゥストラかく謡いき―フレディ・マーキュリーとゾロアスター教コミュニティ―

 少し前の話題になりますが、伝説的なミュージシャンであったフレディ・マーキュリーの生涯を描いた映画、『ボヘミアン・ラプソディ』が大ヒットしました。私は恥ずかしながらこの映画を見るまで知らなかったのですが、フレディはゾロアスター教徒の家系の生まれとのこと。劇中でも出てきましたが彼の本名はファッロフ・ブルサーラー*1。ファッロフはペルシア語圏によく見られる名前です。
 劇中、フレディの父親ボミが「良き思い、良き言葉、良き行い」と何度か口にしますが、これはゾロアスター教の信仰告白である「フラワラーネ」の最後の部分にある一節*2

 ゾロアスター教は周知の通り、善神アフラ・マズダーを信仰しており聖火に向かって礼拝する善悪二元論が特徴の宗教です。世界最初の啓示宗教とも呼ばれ、その教義はユダヤ教・キリスト教・イスラーム等のアブラハム系一神教に取り入れられ、北伝仏教にも影響を与えたと考える研究者もいます*3。サーサーン朝ペルシア帝国(226年-651年)の時代には国教の地位を占めましたが、イスラームの大制服によってサーサーン朝が滅びると「啓典の民」の地位を確保することはあったものの*4、次第に数を減らし少数派となっていきました。

 さて、フレディの出身ですが、ゾロアスター教と聞いて普通に思い浮かべられるイランではなくアフリカ東岸のインド洋上にあるザンジバル島とのこと。何故なのかというと少し話が長くなります。
 まず、イランのゾロアスター教徒はムスリム(イスラーム教徒)が多数となる中で信仰を細々と守ってきましたが、10世紀前半頃、新天地を求めてインドのグジャラート地方へ集団で移住する者が出てきます。これがいわゆるパルーシー(原義はペルシア人)で、彼らはイランのホラーサーンへ使者を送ってゾロアスター教の聖火を取り寄せ、インドに信仰の火を灯します*5
 この後、インドのゾロアスター教コミュニティは紆余曲折ありながらも人数を増やし、(少し古い数字ですが)現代のゾロアスター教人口はイランに5万人、パキスタンに5千人、インドに8万人と言われており*6、本家のイランよりもインドの数字の方が大きくなっています。パルーシーのコミュニティには経済的に成功した人物がしばしば見られ、中でも現代インド最大の財閥として知られるタタ・グループはその最たるものでしょう*7

 ただ、それにしたところでインドはヒンドゥー教徒人口が圧倒的に多数であり、またムスリム人口も相当数おり、ゾロアスター教徒が人口の面であれば吹けば飛ぶような存在であることは変わりませんでした。
 近代、イギリス帝国は植民地支配において、現地の少数派を植民地官僚として登用し支配を広げていきます。
 一方のザンジバルは1890年にイギリスに保護国化されており、これと前後して同じくイギリスに支配されていたインドとの繋がりが強くなってきていました*8。この時期、ザンジバルのインド系人口も増加しています。
 フレディの父親ボミはこの時代の流れとイギリスの政策に乗り、インドからザンジバルに渡って植民地官僚として働いていたのです*9。1964年、前年に独立していたザンジバルでは革命が発生し、選挙によって選ばれたアラブ系の政権がアフリカ系の人々により排除され、アラブ系の人々や旧支配層などはイギリスやエジプトに亡命するところとなります*10。植民地官僚として働いていたボミも家族を連れてイギリスへと渡ります。フレディは1946年生まれですから、これが18歳になる年のことでした。

 イギリスへ渡った後のフレディはよく知られている通り(そして大まかには映画で描かれたように)、大スターへの道を進み、エイズで惜しくも45歳という若さで亡くなります。
 映画ではゾロアスター教の徳目を押し付ける父親を煙たがっていたフレディが、ライブ・エイド(20世紀最大のチャリティコンサート)の直前にボミと会って「良き思い、良き言葉、良き行い」について会話をし、抱擁するシーンがあります。彼がどの程度ゾロアスター教の教義に関心を持ち、実践的であったのかは私には判断する知識も能力もありませんが、彼はペルシア人を名乗り(インド出身だとは言わなかったそうですが)*11、死後少なくとも土葬ではなく火葬されたそうです。本来、ゾロアスター教の教義では死体は風葬(ないし鳥葬)されるのが理想なのですが、近代以降のインドのゾロアスター教コミュニティでは諸々の問題から火葬を選択するパルーシーも増えてきていたようです*12
 映画のように分かりやすい構図だったかはともかく、フレディの心にある程度は長い道のりをたどってきた一族と、ゾロアスター教への思いがあったことは間違いないのではないかなあと思うのでした。

*1 青木健『新ゾロアスター教史』 p.275 映画では英語訛りなのか少し異なる表記だった。
*2 「私は、よく考えられた思考をすることを自ら誓い、よく話された言葉を話すことを誓い、よくなされた行動をなすことを誓う」。メアリー・ボイス『ゾロアスター教』 p.86
*3 ボイス前掲書 p.27
*4 後藤明「啓典の民」『新イスラム事典』。啓典の民はムスリムに敵対しなければ宗教的自治が認められた。
*5 青木前掲書 p.250
*6 上岡弘二「ゾロアスター教」『新イスラム事典』
*7 タタ・グループについては青木前掲書 pp.264-273
*8 宮本正興・松田素二[編]『新書アフリカ史 改訂新版』 p.265
*9 青木前掲書 p.275
*10 富永智津子『スワヒリ都市の盛衰』 p.85
*11 青木前掲書 p.275
*12 ボイス前掲書 p.403
プロフィール

鉄勒京二

Author:鉄勒京二
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