復讐、そして栄光/赤羽堯



 ありがちな表現を使うなら、ヨーロッパ、エジプト、モンゴルによる三国志である。
 エジプトの歴史、というと大概の人の頭に浮かぶのは古代エジプトだろうが、この本の舞台はイスラム化した後、つまり中世のエジプトである。奴隷から身を起こしルイ九世の十字軍を撃破、当時破竹の勢いだったモンゴルの西進を止め、ついには王となった男が主人公だ。背景描写も素晴らしく、様子がありありと浮かんでくる。
 褐色の肌に独眼の巨漢、バイバルス。日本ではあまり知られていないが、モンゴルの進撃を押しとどめた最初の政権、マムルーク朝の英雄である(ちなみに二番目は鎌倉政権)。サラディンの死から60年ほど後の人物だ。
 ルイ九世の伝記を書いたジョワンヴィルもちょい役で登場したり、結局は破れたもののモンゴル軍を初めて撃破したジャラールッディーンの名前が出てくるあたり、なかなかこの地域が好きな人にとっては楽しい仕上がりになっている。バイバルスの親友でバイサリーという男が登場するが、調べてみるとどうやら彼も実在の人物のようだ。
 その他にも、イスラム圏で数少ない女性君主となったシャジャルドゥッルや、モンゴル軍を率いていたキトブカ・ノヤンなど、魅力的な登場人物が多数登場する。

 どこから資料を集めてきたのかと思うが、書き下ろし二千枚だそうである。文庫版で上下巻合わせて900頁超だからかなり長いが、重めのファンタジーを読み慣れている人なら問題なく読めるだろう。

 フビライが日本を攻めるため、大量の船の建造を勧めているころ、モンゴル帝国の西端ではこんな戦いがあった――日本史と付き合わせて読んでみるのも面白い。

 個人的にはこの本を読んでルイ九世が意外に格好良かったのに少し驚いた。物は書きようなのか、実際にこんな人物だったのかと言われれば微妙なところだが。


章立て

上巻
第一部 十字軍の遠征
 第一章 奴隷市場
 第二章 カイロの花
 第三章 十字軍との攻防
 第四章 スルタン暗殺
 第五章 モンゴル軍始動

下巻
第二部 モンゴル軍との情報戦
 第一章 隠遁と造反
 第二章 アイン・ジャールートの戦い
 第三章 軍事クーデター
 第四章 マムルーク朝の危機
 第五章 栄華と終焉
プロフィール

鉄勒京二

Author:鉄勒京二
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