失われた歴史/マイケル・ハミルトン・モーガン


 「「知の探求」と「宗教的寛容」こそが、イスラームの本質である」――本書帯の文句より。
 これまであまり顧みられる事が少なく、「脚注に追いやられることが多かった」イスラームの科学・思想・芸術が近代文明の成立に関して果たした役割を再評価すべく書かれた本である。
 
 まず、読ませる力のある本である。著者は小説家でノンフィクション作家とのことだが、その経験が生きているのだろう。一方、翻訳には少々戸惑うところがある。索引を引いてアルファベット表記を確認した方がいい場合もあるかもしれない。そしてその索引も充実しておりありがたい。

 時代別ではなく、テーマ別に、ムスリム科学者、思想家、芸術家たちの人物を追い、事跡を追う。小難しい話は少なく、ひたすら近代文明との連結の仕方を説明し、また、彼らがどう生きたのかを描く。イブン・シーナーやフワーリズミーからサラディン、マイモニデス、イブン・フィルナスまで、様々な人名が入り乱れる。

 イスラーム世界は、ギリシア・ローマの学問がヨーロッパで再び花開くまでの保管庫としての役割を果たしただけではない。それらを発展させ、個人名を一時的にではあれヨーロッパに記憶させる人々がいたのである。サミュエル・ハンチントンの「文明の衝突」論とは一線を画した、文明間の交渉と伝達、関係の歴史がそこにはあるのだと気付かされる。

 高校世界史程度の予備知識があれば読めるだろう。個人的には大変面白く、大冊だがすぐに読めてしまった。
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鉄勒京二

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