ハプスブルクの実験/大津留厚


 副題は「多文化共存を目指して」
 神聖ローマ帝国消滅後、ナショナリズム勃興の中、多民族国家としての生き残りを計ったハプスブルク帝国が、いかに統治をしたかを、具体例を持ち出しながら解説した本。ハプスブルクと聞いて思い浮かぶ皇帝、妃達の華々しい逸話は出てこない。多民族のそれぞれのアイデンティティを尊重した統合に苦難を重ねた、ある国家組織の壮大な「実験」が記される。
 
 もとは中公新書で出ていたが、それに増補改訂を行ってハードカバーで出し直したということらしい。派手な表紙がいかにもハプスブルクらしいが、それはまあ置いておいて。扱われているのは政治制度、民族統計、行政、軍政、教育などに関して、オーストリア憲法19条で謳われた民族の平等をいかにして達成するか、その努力である。

 暴力機関としてではなく、内部で多民族の統合を支える役割を見た時に、ハプスブルク共通陸軍(オーストリア、ハンガリーにそれぞれ固有軍があったためこういう言い方をするらしい)が果たした役目に関して考察した稿が面白かった。
 連隊語(連隊内での生活・教練に関わる語)と、指揮語(軍の作戦行動に関わる語)を峻別し、連隊語は自民族の言語で(この場合の自民族もまた自明ではないのだが)、指揮語はドイツ語であったという。
 「生活や教練は自分の言語ですませ」「民族的に異質な地域に配属されることも少な」かった。

 中近世来の古い型の「帝国」を問い直すことは、オスマン帝国史の立場に立った書籍でも行われているのを見るが、現代の世界において、その帝国が進めてきた実験を問い直すことにどんな意味を見いだせるか、考えようと思った。

章立て

第1章 自立して対等にして共通―アウスグライヒ体制の構造
第2章 あなたの民族は?―統計と民族
第3章 もしも兵士になったら―軍隊と民族
第4章 役所で―行政と民族
第5章 少数民族系小学校のつくり方―教育と民族
第6章 ユダヤ人ナショナリズムとシオニズム
第7章 アメリカへ、アメリカから―失われた故郷
第8章 民族は比例的に代表されるか―議会と民族
第9章 人類最後の日々―ハプスブルク帝国の崩壊とAONOGAHARA
エピローグ 崩壊そして新たな出発
プロフィール

鉄勒京二

Author:鉄勒京二
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