イスラーム帝国のジハード/小杉泰


 興亡の世界史シリーズ6巻目。「ジハード」というキーワードを軸に、イスラーム世界の歴史を概観する。オスマン帝国については同シリーズの「オスマン帝国500年の平和」があるのでそちらに譲るとのこと。
  
 著者はイスラーム世界の歴史そのものよりもイスラーム思想史について詳しいとのことで、本書にもその見識がちりばめられており、より立体的にイスラーム史(政治史、事件史だけでなく思想史も絡めて)を把握することができる。
 改めて言うまでもないことだが、「ジハード」の語はイコール聖戦ではない。著者は「奮闘努力すること」と訳されたそれを「内面のジハード」「社会的ジハード」「剣のジハード」に分類し、それぞれの成り立ちと関係をひもときながら、イスラーム世界の歴史をなぞっていく。

 主に扱われているのは預言者ムハンマドによるイスラームの開闢から、そのメッカ時代、マディーナ時代(この時期を扱った部分に関しては軍事史的な見地も見られる。個人的に興味深かった)、ウマイヤ朝からアッバース朝、そして飛んで近現代。
 近現代部では一部の過激派・急進派の考え方の分析、その問題点を示し、イスラーム世界で多数を占める中道派の援護をする。単純に政治史・事件史だけを追っていては見えないものが見えてくる。


章立て
第1章 帝国の空白地帯
第2章 信徒の共同体
第3章 ジハード元年
第4章 社会原理としてのウンマ
第5章 帝都ダマスカスへ
第6章 イスラーム帝国の確立
第7章 ジハードと融和の帝国
第8章 帝国の終焉とパクス・イスラミカ
第9章 帝国なきあとのジハード
第10章 イスラーム復興と現代


個人的な話だが、マアムーンが行ったイスラームの理念的体系化の介入が失敗したことは少しもやもやしたものが残る……が、仏教でも念仏宗が流行ったことを考えればそれもまた歴史の流れとしてある種当然だったのか。
プロフィール

鉄勒京二

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