チンギス・カンとモンゴル帝国/ジャン=ポール・ルー


 初学者向け:◎

 絵で読む世界文化史シリーズの111巻目。このシリーズの特徴としてビジュアル資料がふんだんに用いられているので、モンゴル帝国史を軽くさらうのには分かりやすく丁度よいだろう。
 邦訳監修は日本のモンゴル史研究の第一人者、杉山正明氏である。
 モンゴル帝国史をさらうのに丁度よいとは書いたが、やはり記述に重点が置かれている部分とそうでない部分がある。著者はフランスのイスラム美術の専門家だそうなので、日本の概説史などとは、やはり注目する点が異なるのだろう。

 初めてモンゴル軍を破ったジャラールッディーンの記述が少ない。モンゴルの進撃を初めて止めたバイバルスに到っては名前が出てこない。南宋への侵攻過程が飛ばされている。日本への元寇についてもごく僅かしか触れられていない。
 何に重点を置いて書かれているかと言えば、大旅行家マルコ・ポーロの東方見聞録の記述であり、ルイ9世の命を受けてモンゴルとの聖地共同奪還を持ちかけたウィリアム・ルブルックの東方諸国旅行記の記述である。日本の概説史は元朝(杉山氏の考えに則るなら大元ウルスと表記した方が良いだろうが)が中心となることが多いが、この本は西方の記述が多い。(ただし、日本の歴史書もある程度詳しくなると西方についてもきっちり述べてある)。
 著者の専門からか戦術・戦闘に関する資料よりも建築や美術に関する資料が豊富である。
 当時のヨーロッパからの「モンゴル観」などもわかって興味深い。

 監修の杉山氏曰く、日本人研究者の研究成果も予想以上に参照されているとのことで、極端な残虐性をモンゴルに求めることに対する疑問や、モンゴルの宗教に対する寛容さなどを記述し、「モンゴル=破壊者」のヨーロッパ中心史観からは一歩距離を置いてあることも特徴だ。

 日本の概説史などとあわせて読むと、より理解が深まるだろうし、洋の東西の違いによるモンゴル観の違いなども分かって面白いだろう。

章立て

第1章 チンギス・カン
第2章 後継者たち
第3章 滅びた帝国・生き残った帝国
第4章 「見聞録」の驚異の世界
第5章 4つの帝国とモンゴルの衰退
資料編


 個人的に見所だと思ったのは監修の杉山氏による序文である。ここまで自信を持ってヨーロッパの史学本に対して尊大な態度を取れる人間は他にまずいまい。良くも悪くも杉山先生がモンゴルが好きなのだろうということを再確認した。
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鉄勒京二

Author:鉄勒京二
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