イブン=ハルドゥーン/森本公誠


 歴史序説の訳者による、アラブ最大の歴史哲学者、イブン=ハルドゥーンの評伝。
 
 もとは30年ほど前にハードカバーで出版されたもの。内容は、彼の思想の概説、その生涯、著作の抄訳、後生に与えた影響の考察からなる。

 イブン=ハルドゥーンはアラブ最大の学者と呼ばれる人物で、その著作「歴史序説」はイスラーム圏の内外で高い評価を受けてきた。
 本文中の言葉を借りると「ヨーロッパ人が最初に発見したものと信じていた歴史哲学や社会学や経済学の諸法則が、すでに十四世紀のイブン=ハルドゥーンによって論じられ、その多くが解明されていたことを知って、彼らは驚異と感嘆の声をあげたのである」。

 本書第1部には、その驚嘆をもって読まれることとなった彼の思想が、簡潔にまとめられている。歴史を動かす「法則」を知ろうとする試みは、イブン=ハルドゥーン以前のイスラーム史家には見られず、彼らはただ表面上の出来事を記録するだけであったのに対し、イブン=ハルドゥーンは優れた洞察力を持ってその法則を導き出した。
 第2部では、イブン=ハルドゥーンの生涯をたどる。浮き沈みを繰り返した彼の人生はもちろん、当時の入り組んだ北アフリカの詳しい政治状況などもわかり、ありがたい。
 第3部は歴史序説の抄訳で、核心に近いと思われる部分を抜き出してある。全訳は岩波文庫から出版されているので気になれば読んでみてもいいだろう。
 第4部は後生に与えた影響、および後生からの評価。エジプトの史家マクリーズィーや、近代イスラーム思想界の英雄アフガーニーの名前も見られる。

 彼の思想に対する日本での知名度は、イスラーム史の研究者以外の間ではそれほど高くない。今回講談社学術文庫に再録されたことは、とても喜ばしいことだと思う。
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鉄勒京二

Author:鉄勒京二
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