遊牧民から見た世界史 増補版/杉山正明


 「遊牧民から見た世界史 民族も国境も越えて」と題して以前出版されたものの増補版。
 帯には「西欧本位、中華王朝史観を問い直す!」とある。
 いつか読もうと思って長らく放置していたのだが、今回増補版が出たということで買ってみた。杉山教授の本の例に漏れず遊牧民に対する贔屓の引き倒し感が無いではない(そしてイランには甘い)。

 内容としてはスキタイから始まるものの、匈奴、鮮卑、柔然、突厥、ウイグル、契丹、モンゴル帝国と、主にモンゴル高原に本拠を置いた遊牧国家について概観していく。「遊牧民から見た」と題されてはいるが、本の成り立ちの都合上テュルク=イスラーム勢力については最低限しか触れておらず、その点は他日を期したい、との著者の言葉である。
 高原勢力の概観ではあるが、重点を置いている部分は、主に匈奴、テュルク系諸遊牧国家、モンゴル帝国である。
 匈奴に関しては、冒頓とそれ以降の対漢関係はもちろんのこと、「漢」王朝(ふつう、前趙とか趙漢と呼ばれる)を建てた劉淵についても詳しい。いわゆる八王の乱から永嘉の乱に至る経過を分かりやすく読める本は浅学にして本書以外知らない。

 遊牧国家の複合性(「民族」を越えた国家であること……括弧付きなのは民族の概念の使用に問題があるため)、択跋国家(鮮卑択跋部の流れを組む北朝および隋唐をこう呼ぶ)・柔然・高車・エフタル・ササン朝によって数珠繋ぎの角逐が行われユーラシア・サイズでの「国際関係」の時代に入ったこと、などなど史観の面でも面白い話が多い。所々に置かれている備忘録やコラムも豆知識的な情報があり、楽しませてもらった。

 最初に書いた通り、贔屓の引き倒し毒舌めいた既存説・通説への批判があるので読む人によっては愉快ではないかもしれない……が、個人的には大変面白かった。
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鉄勒京二

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