十字軍大全/エリザベス・ハラム



 英国の社会人類学者、エリザベス・ハラム女史がまとめた歴史書。年代記、日記、書簡などからの引用が主になっており、一次史料を調べたい時には重宝する。
 ドイツ騎士団についての記述もちょくちょく出てくる。レコンキスタも扱っているのでスペイン史も関わってくる。ヨーロッパ側、イスラム側、ビザンツ側の史料をそれぞれ引用しており、まさに全書と言って差し支えない。
 かなり重い。そして分厚い(654頁だが、そこそこ良い紙を使っている)。鈍器になりうる本である。
 しかし、これを一冊丸々読めば十字軍が理解できるかというと、その点にはいささか疑問が残る。本文のほとんどが年代記等からの引用で、個々の出来事のつながりや、現代的な視点から見たときの解釈などが分かりづらい(もっとも、それを理解させることを目的とした本ではないのだろうが)。どちらかと言うと時代別に並べてある辞書的な使い方が好ましいと思われる。

 かなり扱っている時代が広範に渡るので、ページ数の割に内容が薄い部分も散見される。時代によっては「アラブが見た十字軍/アミン・マアルーフ」や「十字軍の遠征と宗教戦争/ジェイムズ・ハーパー」などを参照した方がいいかもしれない。
 しかしまあ、珍しい史料もある。ジョルジュ・タートの本では抄しか載っていない年代記が中略無しで載っていたり、現代では不正確さゆえに不必要とされるような記述(つまり、学術的にその記述そのものに意味は無いが、その時代の人の視点がわかる)もそのまま載っていたりする。
 また、広範に渡る時代の記述によって、ニコポリス十字軍の関係上掲載されていたティムールに関する史料も掘り出し物だった。

 ちなみに、著者ではなく訳者の問題なのだが、本文中に「トウモロコシ」という単語が出てくる。おそらくcornのことなのだろうが、ここでは「穀物」と訳すべきであった。十字軍時代の旧大陸にトウモロコシは無い。
 初めて英訳された史料が多いとのことなので、つまり初めて邦訳された史料も多いはずなのだが、こういう間違いはいただけない。
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鉄勒京二

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