イスラーム教「異端」と「正統」の思想史/菊地達也


 イスラームの思想史を、その初めから、分派がおおよそ確立されるまでの時代を網羅的に通史として扱う。少し専門性が高いが、一冊でイスラーム思想史の流れをある程度把握できるので便利な本。
 
 教科書的な「主流スンナ派から離脱したのが少数シーア派である」という理解は、現在において結果から見た理解でしかない。時系列順に思想の流れを追っていくと、むしろ少数派が先に思想を確立し、それに対抗する形で多数派も教義を整え、スンナ派となっていったことが分かる。それを解説していったのが本書である。
 細部の異教徒には難解な教義に関する話はほとんど出てこない。あくまで分派を系統立てて説明し、何が派を分けたのかを見ていく。
 カイサーン派、ザイド派、イマーム派の分派に始まり、十二イマーム派とイスマイール派の分派についても触れる。そしてそれらに対抗すべく教義を整えていったスンナ派の思想の展開についても整理する。

 史料が少なく、現存している史料も必ずしも当時の状況そのものを伝えているわけではない中での整理は難しいと思うが、よくまとまっていて読みやすい。
 個人的には、シーア派的運動から始まったアッバース朝革命の思想的経過が面白く読めた。まず、カイサーン派イマームとしての地位に正統性を求める立場から、アッバースがムハンマドの地位を継承したとする立場へ変わった。さらに多数派の尊敬を集めるアブー・バクルとウマルを擁護するために、イスラーム法の保護と執行がアッバース家の支配を正当化する根拠になっていったという。

 ちなみに、タイトルの「イスラーム教」は宗教としてのイスラームを指す場合に使う、との但し書きが本文中にある。
プロフィール

鉄勒京二

Author:鉄勒京二
当ブログは一介の歴史好きが読んだ本を紹介したり、書いた文章を公開したりするための場です。執筆記事は西アジア史関係が多いですが、読書は西アジアにこだわらず地域・時代を広く浅く扱っています。
当ブログの内容を雑誌・書籍等にご利用されたい場合はご一報下さい。
管理人への連絡は掲示板か拍手でどうぞ。

検索フォーム
カテゴリ
リンク
アクセスカウンター
月別アーカイブ