イスラームから見た「世界史」/タミム・アンサーリー


 帯に曰く「歴史への複眼的な視座を獲得するための、もう一つの「世界史」」「私たちは、イスラームを知らない」。アフガニスタンで育ち、アメリカに住む著者が、イスラームから見た世界史を書いた。
 著者は言う、9.11以前、「もし、私たちの教科書の目次を額面どおりに受け取ったら、イスラームが今でも存在するとはとても思えないだろう」。それがアメリカの歴史教科書の状態であった。イスラームを中心に扱うのは、30章のうち1章にすぎなかったという。この偏りは、日本の標準的な教科書と比べても一目瞭然である。
 彼は、その欠落した歴史を、物語として書こうとした。それが本書である。

 扱われているのは基本的にイスラーム世界の「核」となる部分の歴史である(もちろん、その範囲は時代と見方によって変わる)。一人の人間が、通史としてこれだけのものを書くというのは実に大変な作業だ(例えば山川西アジア史などは複数の著者陣によって分担されて書かれている)。驚くのは、ムスリムであろう著者が、驚くほどイスラーム世界を、そしてそれぞれの主義・主張・思想を相対化していることである。ただ、彼の主張は、そこにイスラーム世界が厳然として、そして連綿として存在してきたということなのだろう。
 モンゴルに対する評価に関しては、これは見解の相違としか言いようがないが。

 訳がこなれていることもあり、内容は全体的に読みやすい上に面白い。文化史も社会情勢と連動させバランス良く盛り込んであるのは、日本の世界史教科書が見習うべき点ではないかと考える。また、著者はエピソードも積極的に扱う。歴史的事件の羅列のみではない叙述は、読者に興味を持たせるにはいい手法だろう。

 本質的な話ではないが、唯一訳で目についたのが「遊牧民」という単語である。恐らくnomadの訳なのだろうが、ゲルマン民族の特性を表している場合、この単語は「遊牧民」と言うよりは「非定住民」とでも訳すべきではないか。
 ともあれ、読んで損はない。イスラーム史にそれなりに知識のある人でも、何かしら新しい発見があるだろう。
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鉄勒京二

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