カエサルを撃て/佐藤賢一


 フランス史の歴史小説を多く手がけている佐藤健一氏の手による、ガリア戦争もの。
 
 「文明」側からのその実侵略戦争である征服戦を、「未開」側から書く、というのは日本の古代東北の英雄アテルイを扱った「火怨」やスコットランド独立戦争を描いた「ブレイブハート」などで書かれている通り、ある程度普遍的に人気のある題材である。
 翻って、この作品はどうかというと、あくまで舞台をそこに借りているだけで、対比はむしろ中年男と若者、つまりカエサルと、主人公ヴェルチンジェトリクスに焦点がある。正義だの善悪だのは二の次である。
 中年男カエサルは、一般的なイメージとは違い徹底的に冴えない男として描かれる。ローマに大して思い入れの無い身からすると、あるいはこういう男だったのかもしれない、とも思う。一方ヴェルチンジェトリクスが魅力的かというと、若さを爆発させており、理解はできるものの共感は出来ない、というキャラクターになっている。
 中年男カエサルの側には若者マキシムスがおり、若者ヴェルチンジェトリクスの側には中年男アステルがいる。この対比は、双方の陣営の中でも現れている。

 ストーリーはヴェルチンジェトリクスの父親が処刑される場面に始まり、ローマに対抗しガリアをまとめ上げるべく動くヴェルチンジェトリクスの行動へ、そしてその対応に追われるカエサルの動きへ、といった体で動く。カエサルは、ヴェルチンジェトリクスとマキシムスに触れて、若かりし頃を思い出す。「中年男カエサル」は一連の戦いの最終局面で撃たれ、ルビコンを渡るのは「英雄カエサル」だったか。
 若きガリアとの戦いで、国として秋を迎えようとしていたローマは、カエサルと同じように生まれ変わると、作者はいいたかったのかもしれない。

 この作者の作品の例に漏れず生々しいシーンが多い。人の営みとはそういうものか、とも思わないではない。耐えられるのなら、それなりに楽しめるのではないか。
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鉄勒京二

Author:鉄勒京二
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