傭兵ピエール/佐藤賢一


「ジャンヌ・ダルクを愛した男」――本書帯の文句より。

 本作は100年戦争期のフランスが舞台だ。
 日本ではそもそも中国史、日本史以外を扱った歴史小説は少ない(中東史などほんの一握りである)その中で、佐藤賢一氏は欧州史を題材にとった歴史小説を多く世に送り出している珍しい作家である。
 日本には「判官贔屓」という言葉がある。弱者、敗者に同情し声援する感情をいう。日本以外にも似たような感情はあるだろう。
 その感情は、時に、ありえないしかしそうあってほしいという願望の為に歴史の形を変えることがある。形を変えられた歴史は既に歴史ではなく、伝説あるいは物語となる。例えば、もしも源義経が生きていたら……。想像する人は多い。

 作者個人の解釈であったり史実とあからさまに違ったり程度はさまざまであるが、歴史小説は実際に起こったこととは違う嘘あるいは実際に起こったかどうかはわからないことを書いてなんぼだと個人的には考える。確定している事実だけを知りたいのならそれは史学の分野であって歴史小説の分野ではないと思うのだ。

 本作の主人公は「シェフ(頭)殺し」あるいは「ドゥ・ラ・フルトの私生児」こと傭兵部隊「アンジューの一角獣」のシェフ、ピエールである。荒くれ者のピエールが、聖女ジャンヌ・ダルクに恋をする。その恋がストーリーを進める原動力の一つとなる。
 さて、ジャンヌ・ダルクである。判官贔屓の日本人がいかにも好みそうな人物である。神の声を聞いた者であると称し、フランスのために戦うが、最後はイングランド軍に捕まり火刑に処される。と、いうのが史実のジャンヌである。
 ネタバレは避けたいので詳しくは書かないが、そのジャンヌという人物に関して佐藤氏は清々しい大嘘をついてくれた。最後は決して全ての人ではないにしろ多くの人が救われる展開になる。

 個人的には実在した武将でもあるラ・イールが格好良かったと思う。歴史小説はどうしても人物の数が多くなるが、脇役にもきっちりと役割を与えている小説だった。


章立て

上巻
一の巻、傭兵も生きていかねばならない話
二の巻、悪辣非道の傭兵が十字軍になる話
三の巻、根無し草の傭兵が、ねぐらを得る話

下巻
四の巻、下賎の傭兵が偉大な神のご意志を全うする話
五の巻、傭兵が死にかけたところで貴族になる話
六の巻、後の話

 ちなみに、佐藤氏は百年戦争物でデュ・ゲクランを主人公にした「双頭の鷲」という小説も書いているらしい。未読だが、読むのが楽しみである。
プロフィール

鉄勒京二

Author:鉄勒京二
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