海域から見た歴史/家島彦一


 アフロ・ユーラシア東西を視野に収めた大海域史。海域の歴史学において一つのスタンダードとなるであろう大冊である。
 
 家島彦一教授と言えばイブン=バットゥータの「大旅行記」、イブン=ファドラーンの「ヴォルガ・ブルガール旅行記」などを和訳されておりイスラーム史分野に明るい研究者だが、その強みを生かした上で加えて欧文・漢文史料も駆使し、さらには世界中を実地調査して回った研究成果のうち、海域史に関わるものをまとめたものが本書である。本文だけで781頁、その他の注や索引、目録などを合わせると1000頁近い。

 陸域中心の歴史では見落とされがちな海域という舞台の実像と、その大規模なネットワークを通じた交流関係を明らかにするべく海域史を設定し、序章と第I部で総論を述べた後、II部からVI部までを各論に当て、VII部は関連する史料のうち新発見のものを扱った附論となっている。
 また、序章で全体の内容が要約され、各部にはそれぞれに「概観」が付されており、全体像の把握に役立てられるようになっている。

 実地調査については北アフリカとユーラシアの各地を実際に歩きまわったというのだから凄まじい。本文でも、文献資料を扱う部分ではいたって冷静であるが、実地調査の部分については感情が漏れ出しているような文章が散見され、その決意と苦労と喜びが偲ばれる。
 素人目で言わせてもらえば総論はもちろんのこと、各論部でも他の日本語文献で見かけないような地域の歴史などがわかって大変面白い。イエメンのラスール朝についてはそれなりに詳しく読める和書は本書だけではないか(ちなみに、山川新板世界各国史でのラスール朝についての言及はたったの二行である)。

 最後に、羽田正教授の有用な書評があるのでリンクを貼っておく。曰く「本書はどの地域、時代であれ、今後海域史研究を志す人が必ず参照せねばならない基本圖書である」。また、本書のいくつかの問題点も指摘されている。
<書評> 家島彦一著『海域から見た歴史--インド洋と地中海を結ぶ交流史』
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鉄勒京二

Author:鉄勒京二
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