十字軍という聖戦/八塚春児


 副題は「キリスト教世界解放のための戦い」。

 近年の十字軍史研究において、史実においてさほど大きな発見があるわけではないから、新たに十字軍の概説書を書くにあたっては解釈や説明において他との違いを出す他ない、と著者は冒頭で語っている。
 「『日本で語られてきた十字軍史』の歴史」についての解説など、他の十字軍関係の本ではあまり見られない視点からの記述が多い。

 著者が概説であると言っているので、最低限の事実関係は説明されている。が、十字軍史の解説というよりは、十字軍時代におけるシステム・思想の解説がメインで具体的事例はむしろそれらの裏付けのために挙げられている面が強い。
 十字軍に関する教科書敵な理解の誤りの指摘もなされている。
 コンスタンティノープルを占領した第四次十字軍は必ずしも世俗的動機のみからの十字軍ではなかったということを示し、コンスタンティノープル占領に対するヴェネツィアの積極的な関与も十分な論拠を持って否定する。
 また、ウルバヌス二世の演説の過大評価の指摘、反十字軍世論の形成によって十字軍運動が終焉へ向かっていったという説への反論等をしている。

 まあ、あくまで、十字軍にまつわる学説の話であって、十字軍そのものに対する著者の評価は無い。その点が不満と言えば不満。

 十字軍史をひとさらいした後で読む分にはおすすめできる本である。
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鉄勒京二

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