オスマン帝国/鈴木董


 初学者向け:◎

 副題は「イスラム世界の「柔らかい専制」」
 ヨーロッパからの視点では専ら怖ろしい強国として語られるオスマン帝国。かつてのローマ帝国の最大領土の3/4を征服したイスラム国は、本当にただ力による征服だけでここまで版図を広げたのだろうか?
 オスマン帝国史に興味がある人だけでなく、何となくイスラム史に興味があるがどこから入ったらいいか分からない人にもおすすめしたい一冊。
 初版は1992年。何せ20年近く前であるから、高校世界史の教科書でのオスマン帝国の扱いも今とは大なり小なり違っていたはずである。「トルコの脅威」といった西洋史観に関しては、最近随分と見直しが進められてきたように感じる(皮肉な話だが、9.11周辺のゴタゴタ以降、イスラムの寛容性を強調する書籍が増えたように思う。統計をとったわけではないのだが)。して、手元の「オスマン帝国」の版を見ると2008年発行の第29刷だそうだ。この本もその流れの中でそこそこのロングセラーとなっているようである。

 内容としては人種や宗教に囚われない人材の登用をしたこと、現在多く紛争地帯となっているアラブ地域、バルカン地域を大過なく統治したこと等様々な事例を挙げ、「柔らかい専制」について解説し、西洋史観からの脱却を目指している。

 とはまあ書いてはみたが、イスラム史で反十字軍やら正統カリフ時代やらを既にある程度学んだ人には、知識と重複する記述が多い上にオスマン帝国史をある程度まんべんなく書こうとしている本で起伏がないと思われるので、少々物足りないかもしれない。
 逆に言えば初学者にはかなりおすすめできる。塩野七生女史の地中海戦記三部作が好きな人も、話の裏側が分かって楽しいかもしれない。


章立て

序 「トルコの脅威」の虚像
1 戦士集団から国家へ
2 コンスタンティノープルの攻防
3 イスラム=共存の知恵
4 イスラム的世界帝国への道
5 「壮麗者」スレイマンの光輝
6 「組織の帝国」の伝説
7 人材吸収・養成のシステム
8 超大国の曲り角

 まあ、こういう偏見じみたことを言うと怒られるかもしれないが、個人的には戦に限れば火器と物量のオスマンよりは騎射と技量のセルジューク朝やホラズム=シャー朝の方がロマンがあって好きである。
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鉄勒京二

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