イスラーム 文明と国家の形成/小杉泰


 イスラーム文明の形成史。「文明」を扱うのでいわゆる宗教としてのイスラームだけでなく、理系学問・技術体系と社会運営の技術体系を総合的に俯瞰する。
 
 イスラーム文明なるものは存在するか、という問いに対しては、この本の表題が示す通り、存在する、という立場を取ってある。では「文明」とは何か、という問いに対してはどう応えてあるか。とりわけ、文化と文明はどういう関係に置かれるのか。本書では応地利明の定義に従い、ある人間集団が生態系のなかで創り上げた生活様式の体系を文化とし、その文化のうちで、他の文化領域に進出・侵入する力を獲得した文化を文明である、とする。

 イスラームはよく商業宗教であると表現されるが、それらの論とはすこし異なり、本書のイスラーム文明論として特徴的なのは、遊牧文化をイスラーム文明の中に位置づけていることである。
 定住農耕民たるヨーロッパ人や我々日本人は、遊牧民の役割を過小評価してきた。著者は著名なモンゴル史家の杉山正明教授の文を引き、その再評価を促す意図に首肯している。イスラーム文明は、都市性、農耕性、遊牧性の三項を連関させている、と著者は書く。これは、定住民と遊牧民の関係を「文明」と「野蛮」として対比するこれまでの定住文明の理解とは全く異なったものだ。
 このように、特徴的な総論を1~3章で構えた後、その構図を援用した各論部に入る。

 各論部で扱われるのは共同体と国家の形成(4~5章)、イスラーム化の進展(6章)アラビア語、諸科学、イスラーム法といった具体的な(社会的なものも含む)技術体系(7・8章)、9章では危機を迎えたイスラームが体系化されてゆく様を追い、終章で文明を確立した後のイスラーム文明と国家をひと通り見る。
 各論部でも、三項連関に基づいた説明が行われている。

 「日本人による新しいイスラーム学」と裏表紙にあるが、確かにこれまでに無い、新しく説得性のある見方の多い本であった。
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鉄勒京二

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