ビザンツ 幻影の世界帝国/根津由喜夫


 タイトルからでは分からないが、ビザンツ通史ではない。マヌエル1世を中心としたコムネノス朝期ビザンツ帝国の世界政策を概説する。
 
 マヌエル1世はあまり評判のいい皇帝ではないらしい。「らしい」というのは管理人がビザンツ史に疎いからだが、ミュリオケファロンでルーム=セルジューク朝のクルチ・アルスラーン2世に負けたあたり、あまり強力な君主だというイメージはなかった。
 本著はそのマヌエル1世を再評価している。国家理念として世界帝国の維持を掲げた、あるいはそれのみを存続理由としてきたビザンツ帝国において、マヌエル帝は複雑な外交関係の中の厳しい舵取りをかなりの度合いで成功させていた、というのである。
 自らを世界の中心と位置づけるのは中華帝国にも見られる性格であるが、ビザンツは中国よりも遙かに国力の劣る国家であった。この時代のビザンツ皇帝は、外交を駆使して周辺諸勢力の均衡状態を作り出し、その危ういバランスの上に調整者として立っていたのだ。

 本著は平易で読みやすく、また史実とは確認しきれない逸話等も、当時の人々のイメージの現れとして積極的に取り入れ、ところどころユーモアセンスのある言い回しで著者自身がイメージを語っている部分もあり(個人的には著者が想像しているビザンツ宮廷でのスルタンの様子が傑作だと思う)、単純に読み物として面白い。
 また、イスラーム史への理解も深く、用語の使い分けや表記などにそれが表れているのも好印象である。

 絶版ではあるが、マヌエル1世やコムネノス朝に興味のある人には是非読んでもらいたい。
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鉄勒京二

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