銃・病原菌・鉄/ジャレド・ダイアモンド


 もはや古典とも言える環境史の名著。今回文庫版となった。
 
 文庫版で上下巻合わせておよそ800頁の大冊である。内容はいわゆる環境決定論と言っていいだろうか。「何故、南北アメリカ大陸の民が、海をこえてやってきたユーラシアの民に征服されて、その逆ではなかったのか」といった地球規模での歴史の流れについて設定された問いを解決すべく議論が展開される。ヨーロッパ中心史観や人種間の優劣を否定し(もっとも、後述するように問題がないわけではない)、各大陸の植生や地理的要因などに着目し、現在の状況を説明する。
 著者はもともと歴史畑の学者ではなく医学部の教授であるという。特に南北アメリカ大陸の征服に関して病原菌に目をつけ、さらにそこから野生動物の家畜化と病原菌の媒介について目をつけたのは理系学問の出身者ならではの目の付け所ではないか。
 過去の気候の分析など、理系学問との連携は日本の歴史学会でも取り沙汰されるようになってきているようだが、まだまだこれからの課題であると言っていい。先んじて理系の学者でありながら人類学や言語学にも造詣が深い著者がこのような本を著したこと、またそれが和訳されたことは大きな刺激になったことだろう。

 内容については今更紹介するまでもなく所々でそれなりに詳しい紹介がされているので省くが、一つ気になった点がある。『新しい世界史へ』で羽田正教授も指摘しているのだが、現行の世界史で用いられている人間集団や歴史空間の名前を無批判にそのまま用いていることである。羽田教授は「ヨーロッパ」という語を挙げているが、個人的な感触としては「中国」(おそらく原語ではChinaなのだろう)の語が気にかかる。現在の中華人民共和国の領域はたかだか最近の二・三世紀程度で形成されたものであり、中国本土(チャイナ・プロパー)外の地域を含めてひとまとめに扱うのは歴史を書く上では無理があるのだ。
 とは言え、問題があろうと読み継がれていくのが古典であり、言い方は悪いが有象無象はそのまま消えていく。本書はその意味でまさに古典たるべきなのである。
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鉄勒京二

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