東インド会社とアジアの海/羽田正


 興亡の世界史15巻目。タイトル通り、「東インド会社」の記述と「アジアの海」の記述がバランスよく盛り込まれている。当たり外れのあるこのシリーズの中でも特に面白かった。
 
 本書の特徴は、扱っている時代について、出来る限り多くのファクターを扱おうとしている点である。著者の羽田教授は「中心の排除」を『新しい世界史へ』の中で謳っているが、その試みの一つなのだろう。
 先行してアジアの海に乗り出したポルトガル、英・仏・蘭(加えてスウェーデンやデンマーク)の各インド会社、現地の政権といった大きなファクターの動き、あるいはそこに関わった個人史など、マクロからミクロまで、そして西から東まで、扱われている範囲は広い。その意味において、本書は「東洋史」の本でも「西洋史」の本でもないのだ。

 興亡の世界史シリーズは巻末に重要用語や主要人物などの簡単な辞書的ページが設けられているのだが(本巻では「主要人物略伝」)、収録されているのがヴァスコ・ダ・ガマ、アッバース1世、ヤン・ピーテルスゾーン・クーン、アウラングゼーブ、鄭成功、コルネリア・ファン・ネイエンローデ、シャルダン兄弟、エリフ・イェール、新井白石、デュプレクス、ラ=ブルドネ、クライブ、アダム・スミスとなっており、この顔ぶれを見ただけでも視野の広さが分かるだろう。
 さらに本書は単純に地域的な視野が広いだけの本ではない。広く扱おうとすると自然に浅くなるものだが、本書では個人史や各インド会社の内情なども過不足無く盛り込まれており、よくこれだけのページ数でまとめられたものだと感心する。史料・先行研究の渉猟やこのページ数に治めるための情報の圧縮・整理・取捨選択など著者の苦労が忍ばれる。

 また、ヴァスコ・ダ・ガマの「インド発見」の実態や、「アジアの海」における北西ヨーロッパ諸勢力の進出後の現地商人の依然として衰えない商活動、東インド会社が領地を持つことを当初は望んでいなかったこと、アダム・スミスによる東インド会社批判など、見るべき話題は多い。
 特に、アジアの海を「経済の海」と「政治の海」に分けて考える点は面白い。
 インド洋海域の陸上権力は一種の自由貿易的な政策を取り、さらに政権内にも支配層の構成民族とは異なる人間を抱え込むことがよくあった。ゆえに北西ヨーロッパ諸勢力の商業的進出は容易であった。これを著者は「経済の海」と表現している。
 一方で、東アジア海域の陸上権力は(必ずそうだというわけではないが)、貿易の徹底的な管理を目指すことが多かった。徳川政権による「鎖国」下の貿易はその最たる例である。これが「政治の海」である。
 著者はこの違いがどこからくるのかについては未だ回答を用意できないと書いているが、有用な視点であろう。

 本書は15世紀以降にはあまり興味のない管理人ががっつくように読んだ本である。見通しの点についても、さらなる興味を引き立てる点についても、非常に素晴らしいと言えると思う。
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鉄勒京二

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