楊家将/北方謙三



 中国史物はあまり読まないのだが、キタイの遼が出てくるというので買った。流石に中国物で名を知られている北方謙三氏の作品だけあって、なかなかに読み応えがあった。
 本作品は決まった主人公というものはいない群像劇である、と思う。中心に据えられるのはタイトル通り北宋の精鋭、楊一家だが、敵方の遼にも「白き狼」耶律休哥、苦労人の耶律奚低など主役を張れるような書き方をなされる人物が多い。
 特に耶律休哥は世捨て人のようなところがあり、地位や富に頓着しない。しかし、いざ戦となると騎馬民族国家遼の面目躍如たりといった趣で精鋭五千騎を手足のように扱う。読んでいて小気味よい。

 そういえば、楊家の当主、楊業はトルコ系の血を引いているかもしれないそうである。どうも、独眼龍李克用と耶律阿保機の対立を思い出す。中原に拠を置く国家のあり方についても考えさせられた。(ただ、作中登場人物の言葉で遼の皆兵態勢に国としての矛盾がある、という表記があるが、その問題はむしろ表面的な物で、定住化、農民化したこと、つまり漢化したことが根本的な問題ではないかと、草原史観にかぶれた者としては思わざるを得ない)

 この物語の種となった「楊家将演義」は中国ではあまり評判の良い小説ではなく、むしろ講談等の内容としてよく知られているらしい。一方、日本での知名度は三国志演義や水滸伝に比べれば無いに等しい。つまり、読者のほとんどに予備知識がない。それでよくもまあ、ここまで読ませる小説を書いたものだと感心する。

章立て

上巻
 第一章 いま時が
 第二章 北辺にわれあり
 第三章 白き狼
 第四章 都の空
 第五章 遠き砂塵
 第六章 両雄

下巻
 第七章 前夜
 第八章 遙かなる戦野
 第九章 われら誇りこそが
 第十章 やまなみ
プロフィール

鉄勒京二

Author:鉄勒京二
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