インカとスペイン 帝国の交錯/網野徹哉


 興亡の世界史第十二巻。インカ帝国時代から、スペイン帝国に征服されその一分となって以降のアンデスの歴史を通観する。
 
 話はだいたいインカが「帝国」と呼べる実態を備えるころから始まるので、1~8代のインカ王については全く触れられない。これらのインカ王の事績については伝説的な要素が強く、はっきりしないそうだ。史料批判を突き詰めると面白くなくなる場合があるが、まあこればかりは仕方がない。
 代わりに中世スペインのキリスト教徒・ムスリム・ユダヤ教徒の関係にページが割かれている。確かに、スペイン人たちは異教徒と接触してきた長い歴史がある。新大陸征服を十字軍の延長だとする見方もあるようだが、しかし共存と対立、排除の複雑な関係の中でスペインが培ってきたものは、新大陸においても連続性を持つ。
 とりわけ強調されるのが元ユダヤ教徒のカトリックへの改宗者、コンベルソたちの問題である(管理人の関心は専らモスリコの方にあったので知らないことだらけであった……)。ポルトガルに流れ込んでいた彼らの活躍が、スペイン治下の新大陸で目覚しいあたり、やはり国民国家成立前の前近代において国と人とは分けて考える必要があることを感じる。

 またメインのアンデス地方についてはインカが既に臨んでいた征服の臨界という状況が興味深い。考古学の成果と伝承、征服者たちが書き留めた史料という限られた(しかし考古学では新しい発見もある)情報をもとに、インカは膨張の限界に達していたことを推察している。
 さらにアンデスの歴史はペルー独立まで書かれているのだが、その独立の遠因となったコンドルカンキという人物が面白い。インカの末裔を称しており、現代のペルーでは英雄視されているそうだが、どうにも出自が胡散臭いらしい。したたかな人物であったのは確かで、なかなかの曲者のようである。

 植民地時代の歴史と言えばどうにも重苦しい空気に包まれているイメージがあるが、本書はつまることなく読めたので入門としても良い本であった。
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鉄勒京二

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