物語 近現代ギリシャの歴史/村田奈々子


 副題は「独立戦争からユーロ危機まで」。タイトル通り、近現代ギリシャの歴史を概観する。
 
 ギリシャの歴史と言えば古代ギリシャというイメージを抱いている人が多いと思う。あるいは、ビザンツ帝国を思い浮かべる人もいるか。このあたりは、管理人の好きなエジプトでも古代ばかりであまり中世に日が当たらないのと同じなので身に覚えのある話なのだが、近現代のギリシャは列強の思惑によって独立させられ、アイデンティティが揺らぎ続けるなかでなんとか今日まで生き延びてきており、この小国のこの時代の歴史が注目されることはあまりなかった。その近現代ギリシャの歴史に陽の目を見せた書籍である。

 内容としては、一話完結形式で時代順に諸々の視点からの歴史が書かれる。アイデンティティを確立しようとせんがために揺れるビザンツの評価、どのようなギリシア語が公用語にふさわしいのか、またコンスタンティノープル(イスタンブル)を獲得しようとする夢、破滅的な二次大戦での内戦などなど。
 個人的にはギリシャの近代化を推し進めた毀誉褒貶激しい政治家ヴェニゼロスが印象に残っている。たどった経歴自体は隣国トルコの同時代の指導者ケマル・アタテュルクとやや似ているところがあるが、ケマルとは異なり彼の政権はやや不安定で、成り行きに依存するところも時折あった。ヴェニゼロスは一次大戦後の希土戦争を始め、戦争の途中で途中政権を追われるが、この戦争自体はケマルがサカリア川の戦いで猛反撃を開始し、トルコ側の勝利に終わる。その後政権に返り咲いたヴェニゼロスとケマルは住民交換に当たって和解し、結局受賞はしなかったものの、ヴェニゼロスはケマルをノーベル平和賞候補に推薦したという。この二人に妙な因縁を感じるのは管理人だけだろうか。

 おそらく本書は今回のユーロ危機を受けて執筆されたものなのだろうが、内容はしっかりしており、歴史ものの新書としてはかなり出来がいい。このブログの読者ならご存知のことと思うが、管理人はかなりイスラーム寄り、トルコ寄りのものの見方をする人間である。しかし、本書はギリシャを主題としつつも公平な見方を心がけていて、すんなりととは言わないまでも、それほど違和感なく頭に入った。新書というスタイルにあった良書である。

 (ちなみに、オスマン帝国治下のギリシャ人について知りたい場合は山川世界各国史の『ギリシア史』で一章が割いてあるので参照されたし)
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鉄勒京二

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