イスラームの「英雄」サラディン/佐藤次高


 初学者向け:○

 副題は「十字軍と戦った男」
 サラディンを中心に扱った和書の決定版の一つ。
 高校世界史でイスラム史が得意だった人なら何も補助資料が無くとも読めるレベルの内容である。
 日本語で書かれたサラディン伝、となるとこの本だ。
 要は好意的すぎる見方をされるサラディンを、一人の人間として見直そう、という趣旨である。まあ彼がイスラム側から持ち上げられるのは当然として、キリスト教側からも讃えられるのはつまらない人間に負けるよりは立派な人間に負けたというほうが示しがつけやすいという心理が働いたからだろう。
 そういうわけで、敵味方両方から理想化されているサラディン像を、一人の人間として捕らえ直すのは案外難しい。それを、 イマード=アッディーンによる「シリアの稲妻」、イブン=ジュバイルの「旅行記」、イブン=シャッダードの「サラディン伝」等々同時代の一次資料をふんだんに駆使して組み立て直そうとしている。

 サラディンの家族に関する記述もそこそこあるのも嬉しい。兄のトゥーランシャー、兄(弟?)のトゥグテキーン、父のアイユーブ、弟のアル=アーディル、父方の叔父のシールクーフ、母方の叔父のシハーブ=アッディーンなど。(欲を言えばもっと彼らに関する情報が欲しかったが)

 巻末の地図、家系図と参考資料一覧も便利である。

 「アラブが見た十字軍」や「物語中東の歴史」等で外堀を埋めてから読むと案外物足りないのだが、最初からこの本を読んでいれば理解は早くできただろうと感じる。品切れ重版未定だそうだが、いっそのこと講談社学術文庫あたりで出ないかと思うのだが。

章立て

プロローグ――サラディンの生きた時代
1修行時代
2エジプトの若きスルタン
3カイロからエルサレムへ
エピローグ――サラディン以後
プロフィール

鉄勒京二

Author:鉄勒京二
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