4億の少数派/山根聡


 副題は「南アジアのイスラーム」。リブレット「イスラームを知る」シリーズの一冊。
 
 4億と言えば日本の人口の3倍以上の数字であるが、それが少数派とはどういうことか。9億のヒンドゥー教徒人口を抱える南アジアにおいては、4億のムスリムは少数派となってしまうのである。
 南アジアのイスラーム、そしてムスリムは、南アジア内でマイノリティであるだけでなく、非アラブであるためにイスラーム教徒の存在する国々のなかで周縁に位置づけられてしまう。いわば二重に非重要視されかねないわけなのだが、4億という数字は全くもって小さなものではないのは理解してもらえることと思う。
 本書は、これまでその数にも関わらず見過ごされがちであった南アジアのイスラーム、ムスリム社会について解説した書籍である。

 本書の特徴は中世からの文化史と、また後の政治史にも絡んで、詩の訳が多く掲載されていることだ。具体的な例を挙げているので、実感が湧きやすい。ただ、ページ数が限られている体裁の本なので、政治史と文化史のどちらかに力点を置いた方が良かったのではないかという気もするが……。
 さて、南アジアの広義のナショナリズムはどうしても多数派を占めるヒンドゥー教徒との関わりの中で展開せざるを得なかった。ヒンドゥー教徒と連携するか、または彼らを他者として自己を確立するか。また、イスラーム教徒の活動とは言え、世俗的なナショナリズムからイスラーム主義的な運動まで、その形態は多種多様である(パキスタン独立の父、ジンナーはムスリムを固有の民族として規定したので、イスラーム国家の樹立を目指さなかった)。本書は、それらの運動・活動を順序立てて述べている。
 また、視野は政治史・文化史に及び、地域的な広がりはバングラディシュ・パキスタン・インドを中心に文字通り南アジア全体に及んでいる。
 
 先にも書いたとおり、ページ数不足が否めないので、詳しいことを知りたい場合はさらに他の本を当たる必要があるが、グローバル化が進むにあたり、4億という数の人々について、知らないわけにはいかない情勢になりつつある。本書は、その入口となってくれるだろう。
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鉄勒京二

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