聖者イブラーヒーム伝説/佐藤次高


 有名なスーフィー聖者、イブラーヒーム・ブン=アドハムにまつわる伝説の形成過程を追う。
 
 寡聞にして全く知らなかったのだが、イブラーヒームはイスラーム世界で広く知られている聖者の一人だという。
 本書は、イブラーヒームの伝説そのものの内容について吟味した本ではない。当初はわずか3行にすぎなかったイブラーヒームに関する伝承が、ついには90頁に渡る伝説へと変化を遂げるその過程を考察する。

 イブラーヒームはバルフの生まれで後にシリアに移ったアラブ人であるらしい。ブハーリーの伝承ではそれ以上のことは分からないのだが、時を経るにつれて徐々にイブラーヒームに関する伝説には尾ひれがついていく。ごく普通のムスリムでしかなかったイブラーヒームが、どのようにして聖者となっていったのか。著者は文献史料をふんだんに用いて、イブラーヒームに関する言説を時代ごとに追っている。
 羽田正教授が文献短評で言っていたように「何故イブラーヒームが聖者となったのか」については説明不足の感があるが、それにしてもこのように伝承・伝説が膨らんでいく過程を調べるというのは面白い作業である。
 あくまで伝説の形成過程についてを扱っているので、スーフィー聖者そのものについての説明は少ない。その点が気になった方は別の本を当たるのが良いだろう。

 ちなみに、著者は地域史の研究のために訪れたジャバラの街で、たまたまイブラーヒームの墓所を見つけたそうだが、その時のあれこれを含めて現地調査での出来事を色々と書いてくれているので著者の行動が分かって面白い。
プロフィール

鉄勒京二

Author:鉄勒京二
当ブログは一介の歴史好きが読んだ本を紹介したり、書いた文章を公開したりするための場です。執筆記事は西アジア史関係が多いですが、読書は西アジアにこだわらず地域・時代を広く浅く扱っています。
当ブログの内容を雑誌・書籍等にご利用されたい場合はご一報下さい。
管理人への連絡は掲示板か拍手でどうぞ。

検索フォーム
カテゴリ
リンク
アクセスカウンター
月別アーカイブ