中世イスラム国家とアラブ社会/佐藤次高


 イクター制に関する研究書。
 
 佐藤次高教授と言えばイクター研究で有名な人、という印象があり、実際に世界的な研究者であるが、それを決定づけたのがこの一冊だった。
 イクターというのはブワイフ朝下のイラクで始めて施行された知行地に似た制度であるが、イクター制は単なる土地制度ではなく、国家と社会を規律する役割を持っていた。ヨーロッパでは「イスラーム封建制」として捉えられることが多かったこの制度を、体系的に独自の制度として捉え直したのが本書である。
 主に扱われるのはイクター制が成立したブワイフ朝下のイラクとアイユーブ朝下・マムルーク朝下のエジプト・シリアで、支配体制側から見たイクター制に加え、イクター制下での農村の様子にまで考察は及ぶ。単に支配者の施行した制度、という面だけではなく、それに縛られる農民や利用する軍人などを視野におさめているのである。

 個人的な収穫はカーミル期のアミールだったファクルッディーン・ウスマーンの経歴、イクター制下でのエジプト農村の実態、封建制とイクター制の違い、コピーしそこねていた論文「アミール・キトブガーへの覚え書」などなど……。
 アイユーブ朝期にしろマムルーク朝期にしろサラディン期とバイバルス期の分析が多いので、ミーハーな管理人でも割とあっさり読めたのはありがたかった。

 中世のイスラーム史を研究するなら必読文献であろうが、一般の読者でも頑張れば読める文章だと思うので、もし気になれば読んでみてもいいだろう。
 このブログの読者に読んでみようと思う方がいるかは分からないが、増補改訂された英語版も出版されているようなので一応付記しておく。
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鉄勒京二

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