大英帝国という経験/井野瀬久美恵


 興亡の世界史シリーズ16巻目。有形無形の影響力で世界を覆った覇権国家、大英帝国の一風変わった概説。
 
 毎度言っていることだが近現代史、就中ヨーロッパは管理人の専門外である。「大英帝国」にしても何となく分かっているようで実態をあまり知らない(恥ずかしい話だが高校世界史で習った分もかなり忘れてしまっている)。興亡の世界史シリーズはなんだかんだで揃えてきたこともあって、今回読んでみた。
 結論から言うと、面白かったのは面白かったのだが、基本的な時系列があまり頭に入っていない身にとっては個々の章は興味深く読めるしそれなりに頭に入るのだが、どうにも縦に繋がらない。ちゃんと高校世界史レベルのことは頭に入れておくべきである……。

 それはさておき、本書は大英帝国の中でもその中心部の政治史ばかりを追っているわけではない。帝国内の様々なファクター、特に弱者や周縁部に視点を置き、「大英帝国という経験」、すなわち歴史上の存在としての大英帝国から、何を学べるか、あるいは、未だ何を学べていないか、それを考えてゆく。
 帝国内のいわゆる「本国」の一部でありながら一枚岩にはなりきれぬ、あるいはなろうと思い得ないスコットランドとアイルランドの問題や、慈善家として有名だった男の像にスプレーで落書きされた「奴隷商人」という言葉、それがその男の、ひいてはその男が発展に貢献した街の評価を巡る大論争を引き起こしたこと、奴隷制を廃止した後の(ちなみにアメリカ独立戦争時、奴隷解放により積極的だったのはアメリカよりイギリスだった)白くない「イギリス人」たちに関わる諸々。
 秩序だって解説されるわけではないが、そこにあるのはどれも大英帝国だからこそ起こり得た「経験」である。

 著者の姿勢は誠実で好感が持てるし、「興亡の世界史」シリーズとして通常の通史・概説とは異なる視点を提供するという点でも成功していると思う。面白い一冊である。

 個人的な話だが、英領カナダが色々と顔を出すのを読んで、カナダ史なんてほとんど何も知らないなあ、ということを再確認したのもこの本のおかげであった……。
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鉄勒京二

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