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イスラーム世界の創造/羽田正


 「イスラーム世界」という歴史学上の言説が与える問題について鋭く指摘した好著。
 
 普段、我々は「イスラーム世界」ないし「イスラム世界」という言葉を何気なく使っているが、その指すところのものは極めて曖昧である。
 著者の羽田教授は、この「イスラーム世界」が指している概念について、以下の4つに分けて分析している。すなわち、「(1)理念的な意味でのムスリム共同体、(2)イスラーム諸国会議機構、(3)住民の多数がムスリムである地域、(4)支配者がムスリムでイスラーム法による統治が行われている地域(歴史的「イスラーム世界」)」である。このように論者によって指すところが異なる上に、複雑でわかりにくい概念を用いて国際情勢を解説するのは至難の業であろうと著者は述べる。
 この「イスラーム世界」という概念を学問の俎上に載せて有効な議論ができるか否か、そしてできるとしてもどの定義を用いればいいのか、それを論じるのが本書の目的である。

 とは言え小難しい概念論よりも、歴史学者らしく地に足のついた史料分析によって、この曖昧な概念がいかにして成立したのか、そして日本で用いられるようになったのか、史学史的、あるいは思想史的な議論を展開する。「史観」の議論ではあるが、極めて実証的でかなり楽に追うことができる。日本の「イスラーム史学」史(鉤括弧付きの意図は推して知るべし)の展開を把握できるというのは、著者の意図とは関係なく単純に興味深くもある。
 また部ごとにまとめが附されており、全体の把握に役立つ。

 どういう議論の展開でこの結論が導き出されるのかは本書を読んでもらいたいが、著者は「(1)理念的な意味でのムスリム共同体」にのみイスラーム世界という言葉を使うべきだと主張する。
 「(4)支配者がムスリムでイスラーム法による統治が行われている地域(歴史的「イスラーム世界」)」は、よく歴史学上で使用される概念設定だが、これに「イスラーム世界」という語を用いるのは、不適当であるという。多様なあり方が存在する、その歴史的「イスラーム世界」に属するということだけが共通点である地域を、著者はひとつにまとめて把握する必要を認めないし、むしろ公平な歴史叙述のためには問題であるというわけだ。「ありのまま」を見つめるときに、必要な枠組みではないということである。

 イスラームに興味を持つ、特に「イスラーム世界」は当然に存在すると思っている人は是非一度読んでみるとよい。その常識をひっくり返されること請け合いだ。
プロフィール

鉄勒京二

Author:鉄勒京二
当ブログは一介の歴史好きが読んだ本を紹介したり、書いた文章を公開したりするための場です。執筆記事は西アジア史関係が多いですが、読書は西アジアにこだわらず地域・時代を広く浅く扱っています。
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