チンギス・ハーンの一族/陳舜臣


 モンゴル帝国物の小説は井上靖の「蒼き狼」を始め数多く存在するが、その中でも本作はフビライの時代までを扱った全四巻の労作だ。各巻のタイトルは「1 草原の覇者」「2 中原を征く」「3 滄海への道」「4 斜陽万里」。
 「蒼き狼」を読んでモンゴル帝国物は腹一杯という感じだったのだが、冒頭がサラディンだったので買ってみたら割と当たりだった。モンゴル帝国物の小説は登場人物が多いので、基礎知識がないとなかなか取っつきにくいものが多いのだが、この作品は割合重要な人物を絞ってあるので読みやすかったと思う(それでもモンゴル帝国に関する知識がゼロだと厳しいが。まあこの本で勉強するのも悪くはない)。
 戦闘描写はほとんど無い。それを期待するなら他を当たる方が良かろう。むしろ、多様な人種、宗教信者を含む人物関係の機微を読むのがこの本の醍醐味だと思う。

 不満を言わせてもらうなら記述が東よりでジャラールッディーンに台詞が無かったり、バトゥのサヨ河畔の戦いに言及がなかったりしたことである。バイバルスに到ってはほとんど名前だけと言ってよかった。しかしそれだけ他に書くことがあるモンゴル帝国の広さと深さには驚くばかりである。文天祥の最期は涙なしには語れない。

 ちなみに貼っておいたリンクは出版年次の新しい中公文庫版であるが、個人的に表紙は集英社文庫版の方が好きである。

 小説を読んでこんな話をするのも野暮だが「ウルス」という語であるとか、モンゴルの宗教的寛容性の強調であるとか……杉山正明先生の影響なのだろうか……?
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鉄勒京二

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