オスマン帝国の近代と海軍/小松香織


 世界史リブレット79冊目。オスマン帝国の近代史を、海軍を軸にして概観する。
 
 オスマン帝国の海軍と言えば華やかなりし頃のピーリー・レイスやバルバロス・ハイレディンが思い浮かぶが、レパントでの敗戦以降、どうなったかイメージの湧く人は少ないのではないだろうか。特にオスマン帝国近代は、日本に対応する時代がほぼ無い(日本は明治維新前後で一気に近代化したため)ので想像しづらい面がある。本書は、そのオスマン帝国の近代史を、海軍の歴史を通じて概観することを目的としている。

 オスマン帝国海軍は、そもそも海事の苦手なトルコ系の人々ではなくギリシア人などの領内のキリスト教徒を水夫として用いていた。しかし、近代に近づくにしたがってナショナリズムの勃興によりその忠誠心が必ずしも期待できなくなっていく。さらに、軍備や宮殿の奢侈は借款の増加と経済的な植民地化を招く。そのような状況下で、海軍は改革を迫られ、しかしなかなか思うようには達成できなかったという。
 改革に関しては開明的なスルタンの上からの改革や、お雇い外国人の重用、その失敗などが語られる。
 また、エルトゥールル号事件(和歌山県沖でオスマン軍艦エルトゥールル号が台風に会い沈んだ事件)に関して、その極東派遣に関するスルタンの汎イスラーム主義プロパガンダ的な目論見についても頁を割いてある。派遣を強行して沈んだエルトゥールル号は、日土友好のきっかけとなったとは言え、その背景にあったものの胡乱さと必死さについてはあまり知られているとは言いがたく、管理人も詳細についてはこの本で初めて知った。

 立憲制期に入っても結局にっちもさっちも行かぬままトルコ革命に突入したオスマン海軍(そしてアナトリア)は、はっきり言って夢のない観察対象であるには違いない。しかし、その「近代化」の過程は各国史を相対化する意味でも知っておいて損はないのではないだろうか。
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鉄勒京二

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