ファーラービーの哲学/ファフレッティン・オルグネル


 アリストテレスに次ぐ「第二の師」と呼ばれた中世のムスリム哲学者、ファーラービーの評伝の和訳。著者はトルコ人である。
 
 ファーラービーはアリストテレス哲学を発展させ、アラビア語世界において哲学研究の基礎を築いた学者である。本書は、そのファーラービーの本邦初の評伝の翻訳……なのだが、少々問題の多い本ではある。
 ファーラービーは父方がトルコ人であることが分かっている。それはそれで良いのだが、本書はどうにも彼の「トルコ性」をやたらと強調したがっているように見える。トルコの公定歴史学にナショナリズムの色合いが濃いのは板垣雄三先生などが指摘しているところだが、本書もその例に漏れていない(ファーラービーの業績を自国のものにしたがっているのはトルコだけではない。イランにはファーラービー国際賞という政府主催の人文学賞がある)
 また、ファーラービーが育った背景としてトルコ民族とトルコ文化についてかなり頁を割いてあるが、この部分も首を傾げざるを得ない記述がちらほら見える。面倒でも、護雅夫『古代遊牧帝国』あたりを先に読んでおく方が良い。

 訳は慣れれば読みにくくはないが、固有名詞の綴りをトルコ語の綴りそのままで載せてあるので、誰が誰か分からなくなることもある(例えばサイフッダウラ:Sayf al-Dawla:Seyfüddevle、イブン・アル=アシール:ibn al-Athir:İbnü'l-Esirなど)。

 色々と文句は付けたが、ファーラービーの思想そのものの紹介に関しては(著者が与えているその評価はともかく)それなりにきっちり読めるものになっている。彼が利用した論理学の基礎から、どういう哲学的思想を持っていたのかまで、これを読めばだいたいのところは把握できるのだ。

 難点があるのは自費出版であるために仕方のないところでもあるだろう。少しイスラーム哲学に興味があるだけならあまりお薦めしないが、ファーラービーその人に興味がある上で、まずはこの本から入ってみるというのなら、それはそれでいいのではないだろうか。
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鉄勒京二

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