オスマン帝国はなぜ崩壊したのか/新井政美


 トルコ近現代史が専門の新井政美先生の著作で、改革派知識人たちという「人物」を中心としたオスマン帝国末期の概観。帯には「憂国のポエジー」とある。
 
 オスマン帝国末期というと高校世界史の教科書的にはミドハト・パシャとエンヴェル・パシャくらいで終わるのだろうが、それまでにも短くない改革運動の歴史がある。
 直接改革には結びつかなかったものの遣仏使節としてフランスを観察したイルミセキズ・チェレビーや、「国民」概念を看取したサードゥク・リファト、そしてリファトとともにギュルハネ勅令を起草し、次世代の改革派たちの多くと何らかの関係を持っていたムスタファ・レシト・パシャ、ムスタファ・レシトから見込まれ『世論の叙述』紙を発行していたイブラヒム・シナースィーなどなど。

 中でも本書で重きが置かれているのは本書の冒頭で予め紹介してあるナームク・ケマル(ムスタファ・ケマルとは別人)である。イブラヒム・シナースィーから新聞『世論の叙述』を引き継ぎ、当局に弾圧されてからは仲間たちとともに「新オスマン人」を名乗りパリで活動することになる。
 ケマルたちは祖国愛、専制政治批判、議会制確立を説き『自由』紙を刊行。精力的に論説を発表していく。
 その後、ケマルは恩赦を受けてイスタンブルへ帰り、また新紙を発行する……。
 このように、「人物」の具体的な活動の記録に大部分を割きながら、どのような立場の、どのような思想がオスマンの言論界を賑わせていたか、というメタ的な議論もしっかり書き込んである。

 この時期は清でも様々な改革運動が起きていた時期で、清末の改革運動を扱った本は多い。しかし一方で、ポスト・モンゴルの内陸国家起源の広域帝国として清と対になるであろうオスマン帝国の改革運動を扱った本は少ない。本書は、その少ないうちの一書であり、読みやすく面白いので大きな価値があるだろう。
プロフィール

鉄勒京二

Author:鉄勒京二
当ブログは一介の歴史好きが読んだ本を紹介したり、書いた文章を公開したりするための場です。執筆記事は西アジア史関係が多いですが、読書は西アジアにこだわらず地域・時代を広く浅く扱っています。
当ブログの内容を雑誌・書籍等にご利用されたい場合はご一報下さい。
管理人への連絡は掲示板か拍手でどうぞ。

検索フォーム
カテゴリ
リンク
アクセスカウンター
月別アーカイブ