最後のローマ皇帝/野中恵子
副題は「大帝ユスティニアヌスと皇妃テオドラ」。副題通り、ユスティニアヌスとその皇妃テオドラを主人公にした歴史小説。
ユスティニアヌスと言えば、東ローマ皇帝としてかつてのローマ帝国の領土を回復すべく北アフリカのヴァンダル王国とイタリアの東ゴート王国を併呑し、また首都コンスタンティノープルではアヤ・ソフィアを再建し今に残る大聖堂を建立するなど、大きな業績を残す一方で、その無理なやりくりのために財政を傾け東ローマ退潮を決定づけてしまったという二面性を持つ皇帝だ。本作では、その二面性をうまく消化し、架空の脇役も配して、ユスティニアヌスの一代記を書ききっている。ただ、文章は読みやすいものの、やや味気ない描写が多い面はある。
本作の特徴は登場人物のうち、女性のウェイトが大きいことで、皇妃テオドラはもちろん、将軍ベリサリウスの妻アントニーナらがメインの登場人物たちと関わり、帯の「愛と野望の物語」という文句通りにストーリーを動かす。しかし、昨今の歴史小説にありがちな女性が出張りすぎて男を潰しているところまではいかない、いい塩梅である。
個人的にはアッティラの孫ムンド(作中ではローマ風にムンドゥス)が格好良く書かれていたのが嬉しかった。ただ、登場頁数は少なかった……。
逆に、宦官で軍人でもある侍従長のナルセスがあまりに悪役すぎないかという点は気になった。
また、戦争においても戦闘シーンもほぼ皆無で、そのあたりを期待していると肩透かしかもしれない。話の運びが自然なので、そう気になる点ではなかったが。
何にせよ、ユスティニアヌスを主人公にした邦語の小説と言えばこれ1冊である。気になる人は読んでみることをおすすめする。