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アラブが見たアラビアのロレンス/スレイマン・ムーサ


 アラブ人史家の手によるT・E・ロレンス伝。
 
 ロレンスと言えば有名な映画『アラビアのロレンス』では、アラブ反乱を導いたイギリス人の指導者、ということになっている。これは、制作当時のロレンス観をある程度反映した見方だろうが、果たして事実は本当にその通りだったのだろうか?
 本書の著者、スレイマン・ムーサ氏は第一次世界大戦とアラブ反乱を経験した生き残りの人々に取材し、また史料を掘り起こし、そうではなかったと結論する。
 本書の前半の戦史部分においてロレンスの陰は薄い。
 実際のところ、多くの英国人将校がしたように鉄道の爆破を行ったり(ゆえに英国人として彼一人が活躍したわけではない)、アカバ攻撃に参加した(あくまで参加したのであって、巷で言われていたようにその指揮を取ってはいない)程度で、彼の貢献とその頑強さは著者も認めているものの、英雄と呼ばれるような働きは一切していないのだから影が薄いのも当たり前なのである。あくまで彼はイギリス軍のアレンビー将軍との連絡将校であった。

 後半の政治・外交史部分に入ると、戦争の終わり頃にロレンスが大佐に昇進したこともあって、その影響力は増してくる。だが、彼はあくまでイギリスの利益を第一に行動していた。著者に言わせれば、彼がアラブの友人であろうとしたのも、まずそれがイギリスの利益になるという考えがあったからだろうという。

 以上のようにロレンスはアラブ反乱の指導者でもなければ、アラブの大義に身を捧げた男でもない、とするのが本書の一方の趣旨である。もう一方の趣旨は、これと対になるもので、アラブ反乱は最初から最後まで、あくまでアラブの意志によってアラブの手で行われた、という主張だ。
 ゆえに、前半の戦史部分はアラブ反乱のシェリーフ軍の動向を伝えるものとして、十二分に読むに耐えるものとなっている。本書が単にロレンスの過剰な持ち上げられ方に反論するためだけの本ではない所以である。もちろん、ロレンスに関わりのある北部方面軍の動向に詳しいが、ある程度は東部方面軍、南部方面軍の動きについての記述もある。

 さらに、ロレンスが何故ここまで有名になり英雄とみなされるようになったのかの考察も行なっている。まず何よりロレンスの嘘言癖に由来するものであろう、というのが著者の主張だが、ロレンス自身の記述や言動から、それが一般に流布するまでの過程が興味深い。
 それにしても、ロレンスが本当に英雄と呼ぶに値しない人物なのに、英雄のイメージが出来上がり、有名になってしまったがゆえに「英雄と呼ばれるような人物ではない」という反駁に始まり、「何故英雄と呼ばれるようになったのか」「どのように英雄と呼ばれるようになったのか」という疑問の対象となっていく現象は面白い。
 本書は、人々の間に流布するイメージを歴史学が扱うことの面白さを教えてくれたような気もするのであった。
プロフィール

鉄勒京二

Author:鉄勒京二
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