千夜一夜物語と中東文化/前嶋信次著 杉田英明編


 中東史研究の草分けの一人、前嶋信次先生の単行本化されていない文章をまとめた著作選の第一巻。
 
 内容は千夜一夜物語(アラビアン・ナイト)の書誌学的な解説、内容紹介、及びその欧文への翻訳史と、中東文化、パルミュラの女王国といったところ。
 それぞれ別の媒体で発表された稿なので、内容的にかぶっているところもあるが、まあそれは仕方あるまい。

 千夜一夜物語の部分を読んで驚いたが、「アラジンと不思議のランプ」と「アリババと40人の盗賊」は、いわゆる千夜一夜の正典テキストには収録されていないようだ。千夜一夜とは別個に存在した物語を、ネタが切れてきた千夜一夜の訳者ガランが、とあるシリア人から聞いて千夜一夜物語の訳書に収録したために有名になってしまったとのこと。
 また、千夜一夜の訳者のうち、バートンと、そのバートンを評価した人々には手厳しい。バートン以前にレベルの高い訳をしていたペインが評価されずに、勝手に原文に色々と追加して知識をひけらかしていたバートンは、確かにあまり好きになれそうにない。

 中東文化に関しては、学問・技術の他、詩(訳がふんだんに載っている)や都市についての稿がある。
 アラビア科学については割と多くの本があるが、技術について著したものは少ない中で、本書に科学と技術の稿や、時計台についての稿など、技術関連の記述が多い。この部分は特に面白く読んだ。
 中東都市についてはB・S・ハーキムが『イスラーム都市』を著してアラブの都市の構造を解き明かす前のものであるが、前嶋先生なりの都市論が展開されており、ツボが押さえられていることがわかる。
 さらに、文化の方に配列されているが、ゼノビア期のパルミュラの概説がある。これも他書であまり読んだことがないので(『物語中東の歴史』には少し記述があったが)面白かった。
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鉄勒京二

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