ポリスの市民生活/太田秀通
生活の世界歴史シリーズの一冊。
古代ギリシアのポリスの市民生活を扱う。
以前紹介した同シリーズの前嶋『イスラムの蔭に』は生活に限らず他の文化に関する文化史的な要素が強かったが、本書はハイカルチャーの歴史をあつかうようなな要素は少なく、文字通り「市民生活」を扱った本である。
なんでもない一日の生活から、通過儀礼や例大祭あるいは酒宴、それに女性の一生など、扱われているのはアテナイの民主政下での市民生活が中心だ。当時の様子を活写した文献(演劇等も含む)から必要に応じてその描写を引用し、わかりやすく解説してある。
しかし一方で、その市民生活を下支えしていた奴隷のあり方、あるいはアテナイの「帝国主義」についても頁を割き、民主政の輝かしい面に陰がついてまわっていたことも強調する。(本書が出版された75年当時における)西洋の、過剰な持ち上げが見られる古代ギリシア観に苦言を呈している場面もところどころにある。
予備知識はあるに越したことはないだろうが(あまり予備知識の無いまま読んで、少し混乱する部分があった)、先にも書いた通り語り口はそう難解ではない。
個人的にはスパルタの市民生活も気になっていたのだが、アテナイとの比較のために引き出される時以外はほとんど載っていなかったのが少々残念ではあった。さはさりながら、古代ギリシアの生活史として貴重な本であることに変わりはない。