ムハンマド時代のアラブ社会/後藤明
世界史リブレット100冊目。ムハンマド時代、アラビア半島の遊牧民社会・都市社会の概説。
内容は、まず最初にムハンマド時代の国家と人々について。これは前史から説き起こしてかつて存在したアラブ系国家についても言及されるが、ムハンマド時代当時のアラビアに国家らしい国家は無かった、ということが説明される。
次に、系譜意識と部族について。血縁による部族組織が完全に社会を規定しているというこれまでのイメージに対して、必ずしもそうではなく、比較的融通のきくものであり、また生活の単位として意識されるものでもないという。この部分では著者が創作した物語によって、そのイメージを湧きやすくしてある(あまり話として面白いものではないのはご愛嬌だが)。
また、メッカ及びメディナの都市社会に関して。これはメッカとメディナの都市としての性格の違い(商業都市か、農業都市か。またその人口構成他)などに記述が割かれている部分があり、当時のアラビア半島にあった都市が単一の性格を持つようなものではなかったことがわかる。
最後は国家の建設で長らしきもののない社会であったアラビア半島に、イスラーム勢力の勃興とともに国家が出来上がってゆく過程が描かれる。
概して新説を示すようなこともなくオーソドックスな記述に終始しているが、読みやすい本なので入門書としてはいいだろう。