サマルカンド年代記/アミン・マアルーフ


 副題は「ルバイヤート秘本を求めて」。
 「アラブが見た十字軍」のアミン・マアルーフによる小説。
 前半はセルジューク帝国、後半は立憲革命に燃えようとするペルシアが舞台である。
 オマル・ハイヤームという人物を御存知だろうか? 彼は天文学者であり、彼が作成した「ハイヤームの暦」は誤差が5500年に一日という極めて正確なものだった(現在、主に用いられているグレゴリオ歴は3000年に一日)。また、数学者でもあり、三次方程式の研究に取り組んでいる。だが、彼の名を今まで留めている要因の一つは、彼の作った四行詩(ルバーイイ)を集めた「ルバイヤート」である。

 前半後半ともに男女間のロマンスがあり、権力を巡る歴史的な葛藤があるが、その全く時の隔たった二つの舞台を結びつけるのがハイヤームによるルバイヤートの自筆本である。
 前半はオマル・ハイヤームとその二人の友人――大宰相ニザーム=ル=ムルクと暗殺教団の創設者ハサン=サッバーフを巡る日々を描いたもの。その日々が、ルバイヤート原本には記されていた。
 後半の主人公、ベンジャミン・O・ルサージはルバイヤート原本を求めて英雄的なイスラーム活動家ジャマールディーン・アフガーニーと出会いペルシアへ赴き、半ばなし崩し的に、半ば自発的にイラン立憲革命に巻き込まれていく。
 歴史と個人が密接に結びつけられた物語は傑作と言えよう。
 ただ、かなり重い本である上、描写が淡々としている(というのも著者も訳者も主人公もジャーナリストだからなのだが)のでかなり頭を使って読まねばなるまい。それに耐えうるなら、希有な舞台を扱う歴史小説として楽しめる。

 今日のイランから、当時の民主主義に燃えたペルシアを想像することが出来るだろうか、そう問いかけようとして自分が近世から近現代のイランをほとんどと言っていいほど知らないことに気が付いた。中東を知ることをやはり怠ってはならないと感じた。
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鉄勒京二

Author:鉄勒京二
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