近況と最近読んだ本など

 今更ですが、明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
 ご覧の通りヌールッディーン伝の更新が止まってるんですが、ヌールッディーンの対北方(ルーム=セルジューク朝とキリキア・アルメニア王国)関係で苦戦していまして……なかなか直接言及した文献が無いんですね。もともとはマヌエル1世の勢力均衡策に乗っかったのはまず間違いないと思うんですが、ダニシュメンド朝の王侯がヌールッディーンのもとに転がり込んできてからの北方への干渉は、巻き込まれただけなのか、それともヌールッディーンの積極的な北方への野心を表わしているのか、評価に困るところでして。
 ルーム=セルジューク朝関連の書籍は、一応英語文献で無いことはないようなので、まずはそれを手に入れてみようと思います。時間がかかるようなら、先に後の章の方を執筆するかもしれません。

 最近の読書は資金が無いので主に積読の消化中。バラーズリー『諸国征服史』の二巻が幸いやっと今月末に出るようで、嬉しいことではありますが、かなり財布に痛いw;
 ということで、以下最近読んだ本と見たDVD
 

■永井晋『北条高時と金沢貞顕――やさしさがもたらした鎌倉幕府滅亡』
 南北朝、というかその時代の画期の一つになった鎌倉幕府滅亡時の両執権、北条高時と金沢貞顕を扱った本。
 北条高時の再評価と、鎌倉幕府滅亡の種々の要因についてが主に印象に残ります(他の内容としては金沢文庫の話なども)。

 高時のイメージの変遷を追った上で、金沢文庫に残る文書からその実像に迫るという方法を取っています。「暴君となるほどの気力も体力もないと考えるほうが事実に近い」という評価は逆に身も蓋もないんではないのかと思わないではないですが、説得力はあります。本書によれば高時・貞顕体制は病弱な高時を支える「眼前の仕事をそつなくこなす能吏の集団」で、矛盾の少ない時代であれば平穏に時を過ごせたであろう(実際最末期の大きなゴタゴタが起きるまでまそうだった)、とのこと。
 鎌倉幕府滅亡の要因については、銭の流通に伴う御家人制の動揺と、気候変動の影響の記述が好印象。これまで別の本でも何度か読んできた説明ですが、要点と因果関係を押さえた上で適度に簡略化してあるので、一番読みやすく頭に入りやすかったと思います。

 付近の時代としてはそろそろ足利尊氏の伝記を読みたいなあと思うんですが、この日本史リブレット・人シリーズでも、人物叢書でも、刊行予定にはあるもののまだどっちも出る気配が無いですねえ。


■フェルドゥスィー『王書』
 中世イランで最も有名な叙事詩の一つ。
 抄訳ですが、なかなか読みやすくていい本だと思います(東洋文庫版の方は文語訳)。田中芳樹氏の『アルスラーン戦記』もモチーフの少なくない部分を王書に負っているので、アル戦ファンも楽しく読めるかと。
 フェリドゥーン王の三王子の戦いや、ロスタムとソフラーブの親子の物語など、どこかしらで聞いたことのあるようなエピソードはしっかり押さえられています。
 王書は神話時代・伝説時代・歴史時代の三部からなりますが、ササン朝の列王史たる歴史時代の部分はバッサリ割愛。いつか全訳で読みたいものですが、難しいですかねえ。
 しかし読んでいる最中に作者のフェルドゥスィーとガズニのマフムードのエピソードが脳裏によぎって微妙な気分になることも(マフムードが彼の評価を改めようと思った時には既にフェルドゥスィーが死去していたというあれ)。現世が儚いというのは作中でも語られることですが、フェルドゥスィーの最期もある意味でそれを体現していたような気もします。


■細川重男『北条氏と鎌倉幕府』
 以前紹介した『頼朝の武士団』と同じ著者の北条氏本。こっちの方が出たのが先でやや砕けた書き方も控え目なので、この方針を突き進めていったのが『頼朝の武士団』だったのかな、という印象。著者の書く北条義時は、なかなか苦労人でくたびれてそうな御仁で味わい深いものがあります。
 「北条氏は何故将軍にならなかったのか」という問いを立て、「身分が低かったから」という従来の説明を退け、その理由を検討していくという執筆方針。著者ははじめに「鎌倉幕府の通史や北条氏歴代の伝記を書くつもりはない」と断っていますが、話も時系列順なので、個人的には頭の中で通史的な整理をするのにもそれなりに役立ったと感じます。
 問いに対してどういう結論が出ているかというと「自ら将軍になる必要がなく、またなりたくもなかったから」というもので一見つまらないように見えるんですが(というか結論だけを重視する人には実際つまらないかも)、その結論を出すまでの過程がなかなか面白い。北条氏の支配体制がいかにして正統化されたか=将軍になる必要がないだけの正統性を北条氏はどのようにして手に入れたか、という説明や、頼朝の血筋が絶えた後の鎌倉将軍が、何故鎌倉将軍として存続できたのか、という説明に新鮮で興味深いものが多いので、楽しんで読めました。


■マイケル・ラドフォード[監督]『ヴェニスの商人』
 西洋政治思想史の授業で見ることになった映画。
 シェイクスピアの有名な戯曲を映画化したもので、基本的に原作は喜劇なんですが、この映画は「ユダヤ人の金貸しシャイロックの悲劇」という性格をかなり全面に押し出した作風になっています(冒頭、燃えている本に注目)。喜劇要素もまったく削られていないので微妙に軋みを立てているようなちぐはぐな印象を受けますが、あるいは一種の風刺的な目的があるのかも?
 シャイロックを演じるアル・パチーノの演技が見事で、またアントーニオ役のジェレミー・アイアンズ(『キングダム・オブ・ヘブン』のティベリウス役だった人)がくたびれた男を演らせたらよく似合っていて好印象でした。
 まあ、何で当時のモロッコ王が黒人やねん、というのは突っ込んではいけないのでしょう。
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鉄勒京二

Author:鉄勒京二
当ブログは一介の歴史好きが読んだ本を紹介したり、書いた文章を公開したりするための場です。執筆記事は西アジア史関係が多いですが、読書は西アジアにこだわらず地域・時代を広く浅く扱っています。
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