中国イスラーム哲学の形成 王岱輿研究/堀池信夫


 中国イスラーム哲学者、回儒の先駆けとなる王岱輿に関する研究書。
 
 中国へのムスリム進出は古い時代の話で、唐代まで遡る。その後時代が下るにつれて土着する者や、中国生まれの者なども増えてきて、漢語を母語とするようになる。そして明末には中国の伝統思想のタームを用いてイスラームに関する論を展開する学者が現れる。彼らのことを「回儒」と呼ぶ。
 王岱輿は張中と並ぶ回儒の草分けの一人で、その後の中国イスラーム哲学に大きな影響を与えた人物だ。本書は、その王岱輿を扱ったものである。

 内容は、まず王岱輿の主著の分析で、そこで用いられている概念、「真一」(平たく言えばアッラーのこと)及び「数一」(根源的な形而上概念であるが、真一の下位に置かれる)がどのようなものか明らかにし、『清真大学』をいかに読むべきかを論じる。
 さらに、中国哲学プロパー出身の著者らしく、その面から王岱輿が用いているターム(取り上げられるのは「無極」と「太極」及び「真賜」と「明徳」)の背後にある歴史的文脈を考察した部分が続く。

 本論は王岱輿を扱うのだが、本書が便利なのは本文およそ400頁のうち、前史(第一章 イスラームの中国展開と、第二章 中国ムスリム知識人の動向)と王岱輿以後の回儒たち(補章 中国イスラーム哲学者小列伝)について200頁割いてあることで、一冊で中国イスラームの展開を追えるようになっていることである。王岱輿本人に興味がなくとも、この部分は押さえておく価値があると言える。

 正直に言ってしまえばいかなる問題が設定されていて、その問題にどういうアプローチで解明を試みていて、どういう結論が出ているのかまでは分かるが、その途中の踏み込んだ議論はいささかついていくのに苦労した。いずれ中国哲学とイスラーム哲学両方の必要な知識を押さえた後で再読したいところである。
 それにしても、あとがきで知ったが著者が中国イスラーム哲学の研究を志したのは定年退職の7年前頃からだったという。この新しい分野に足を踏み入れる情熱は見習いたいものである。
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鉄勒京二

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