近況と最近読んだ本など
一応卒業要件単位を満たしたので卒業できそうです。実定法の成績が今ひとつ(というかギリギリ)で、法社会学や法史学の方がマシといういつものパターンでした。
ところで、山川出版社のTwitterアカウント曰く、「世界史リブレット・人」シリーズが4月から刊行されるようで。ラインナップなど詳しいことはまだわかりませんが、楽しみにしておくことにしましょう。
今回読んだ本のうち二冊は英国近代史(海軍関連)を専攻してる友人から借りたもの。前に『大英帝国という経験』は読みましたが、そうは言っても予備知識が少なくてなかなか苦労しました。しっかりレビュー書けるレベルではないような気がするので、こっちに置いておくことにします。
■秋田茂『イギリス帝国の歴史 アジアから考える』
グローバル・ヒストリーが最近はやりですが、横の繋がりを把握するのには何かしらの接着剤的な枠組みがあると便利で、それを「イギリス帝国」に求めてみたらどうだろう、という本。多様な人に「利用された大英帝国」という視点が面白いところ。
とは言え、予備知識が無いせいかもしれませんが、ちょっと新書にしちゃあ詰め込みすぎじゃあないかなあ、と。新旧の学説の比較・検討や、新しい視点の持ち込みをしながら、通史として手頃に、っていうのはちょっと無理があったのではないかと思います。日本語で手軽に読めるイギリス帝国の通史がないから書いた、というのであれば、手軽かどうかは微妙なところ。
さはさりながら、興味関心に応じて必要なところを読むという読み方であれば、これはこれで良い本です。目次も詳しく、索引も付いているのでその辺は抜かりなく便利。
「非公式帝国」論については、ちょろっと聞いたことがあったものの、本書ではじめて旧説との絡みも含めて割と具体的に把握にできたところがあると思います。これは収穫。
あと、アメリカを世界帝国と見る論に関して「「アメリカ帝国論」が数多く出版された。しかし、そうした議論の多くは、国際関係論や国際政治学の専門家によってなされているため、歴史的な実態が軽視され、理論的な枠組みでの「空中戦」に終始しているといわざるをえない」と、苦言が呈されているわけですが、学部で国際政治論とちょくちょく勉強していた身からするとこれは深くうなずけるところがあり……。
■横井勝彦『アジアの海の大英帝国 19世紀海洋支配の構図』
こっちは各論で、英国海軍史の本。モンゴル帝国史の杉山先生がよく、ランド・パワーの時代からシー・パワーの時代へ、なんてことを述べられてますが、その「シー・パワー」について把握するのにかなり役立ちました。海軍というのは、資金と技術と運用システムと周囲の理解が無いと成り行かないんだなあ、ということがよく分かります。
戦後、軍事史は割と忌避されてきた経緯があって、軍事史・戦史というと学者というよりはマニアが書く学研の本になっちゃうところですが、本書の著者の横井先生は、「海軍」と「イギリスの世界への影響力の行使」の関係を他分野との関わりも考慮しつつ書くという、かなり稀有なことをやってのけています。
「なんだ海軍の本か」と思わず読んでみることをおすすめします。
■井筒俊彦『『コーラン』を読む』
岩波セミナーブックから出ていた本が文庫になりました。もともとは、岩波のセミナーホールで井筒先生が行った講演をまとめたものとのこと。口語体で、また週一回の講演だったらしく、前回までのおさらいも兼ねて重要なところは繰り返し述べられているので非常に読みやすいです。
開扉章のわずか七節のフレーズを材料に、その言葉の背景にある世界を縦横に語るという井筒先生ならではの講演だったようで。もっとも、この七節は預言者本人がコーランのエッセンスがここに凝縮されている、と言っているのでこの七節で関連する事項を話そうと思えばこうなるのかもしれませんが(ちなみに全400頁くらい)。
言哲関連はじめ哲学タームがほいほい出てきますが、割と分かりやすく解説してあるのでその辺は大丈夫でした(もっとも、深く理解しようと思えばその方面の知識もあった方がいいんでしょうが)。それに、ユダヤ教、キリスト教はもとより仏教やインド哲学にまで話が飛んで的確に解説するのは流石井筒先生といったところ。
岩波から出てるコーラン本と言えば、小杉先生の『『クルアーン』 語りかけるイスラーム』が割と新しいですけれども、本書もほとんど古びていないと言っていいでしょう。両方読むことをおすすめします。
ところで、山川出版社のTwitterアカウント曰く、「世界史リブレット・人」シリーズが4月から刊行されるようで。ラインナップなど詳しいことはまだわかりませんが、楽しみにしておくことにしましょう。
今回読んだ本のうち二冊は英国近代史(海軍関連)を専攻してる友人から借りたもの。前に『大英帝国という経験』は読みましたが、そうは言っても予備知識が少なくてなかなか苦労しました。しっかりレビュー書けるレベルではないような気がするので、こっちに置いておくことにします。
■秋田茂『イギリス帝国の歴史 アジアから考える』
グローバル・ヒストリーが最近はやりですが、横の繋がりを把握するのには何かしらの接着剤的な枠組みがあると便利で、それを「イギリス帝国」に求めてみたらどうだろう、という本。多様な人に「利用された大英帝国」という視点が面白いところ。
とは言え、予備知識が無いせいかもしれませんが、ちょっと新書にしちゃあ詰め込みすぎじゃあないかなあ、と。新旧の学説の比較・検討や、新しい視点の持ち込みをしながら、通史として手頃に、っていうのはちょっと無理があったのではないかと思います。日本語で手軽に読めるイギリス帝国の通史がないから書いた、というのであれば、手軽かどうかは微妙なところ。
さはさりながら、興味関心に応じて必要なところを読むという読み方であれば、これはこれで良い本です。目次も詳しく、索引も付いているのでその辺は抜かりなく便利。
「非公式帝国」論については、ちょろっと聞いたことがあったものの、本書ではじめて旧説との絡みも含めて割と具体的に把握にできたところがあると思います。これは収穫。
あと、アメリカを世界帝国と見る論に関して「「アメリカ帝国論」が数多く出版された。しかし、そうした議論の多くは、国際関係論や国際政治学の専門家によってなされているため、歴史的な実態が軽視され、理論的な枠組みでの「空中戦」に終始しているといわざるをえない」と、苦言が呈されているわけですが、学部で国際政治論とちょくちょく勉強していた身からするとこれは深くうなずけるところがあり……。
■横井勝彦『アジアの海の大英帝国 19世紀海洋支配の構図』
こっちは各論で、英国海軍史の本。モンゴル帝国史の杉山先生がよく、ランド・パワーの時代からシー・パワーの時代へ、なんてことを述べられてますが、その「シー・パワー」について把握するのにかなり役立ちました。海軍というのは、資金と技術と運用システムと周囲の理解が無いと成り行かないんだなあ、ということがよく分かります。
戦後、軍事史は割と忌避されてきた経緯があって、軍事史・戦史というと学者というよりはマニアが書く学研の本になっちゃうところですが、本書の著者の横井先生は、「海軍」と「イギリスの世界への影響力の行使」の関係を他分野との関わりも考慮しつつ書くという、かなり稀有なことをやってのけています。
「なんだ海軍の本か」と思わず読んでみることをおすすめします。
■井筒俊彦『『コーラン』を読む』
岩波セミナーブックから出ていた本が文庫になりました。もともとは、岩波のセミナーホールで井筒先生が行った講演をまとめたものとのこと。口語体で、また週一回の講演だったらしく、前回までのおさらいも兼ねて重要なところは繰り返し述べられているので非常に読みやすいです。
開扉章のわずか七節のフレーズを材料に、その言葉の背景にある世界を縦横に語るという井筒先生ならではの講演だったようで。もっとも、この七節は預言者本人がコーランのエッセンスがここに凝縮されている、と言っているのでこの七節で関連する事項を話そうと思えばこうなるのかもしれませんが(ちなみに全400頁くらい)。
言哲関連はじめ哲学タームがほいほい出てきますが、割と分かりやすく解説してあるのでその辺は大丈夫でした(もっとも、深く理解しようと思えばその方面の知識もあった方がいいんでしょうが)。それに、ユダヤ教、キリスト教はもとより仏教やインド哲学にまで話が飛んで的確に解説するのは流石井筒先生といったところ。
岩波から出てるコーラン本と言えば、小杉先生の『『クルアーン』 語りかけるイスラーム』が割と新しいですけれども、本書もほとんど古びていないと言っていいでしょう。両方読むことをおすすめします。