チンギス・カン "蒼き狼"の実像/白石典之


 モンゴルで考古学研究を行なっている白石典之先生のチンギス・カン本。文献史学と考古学の成果を組み合わせ、一風変わった視点からチンギス・カンの実像に迫る。
 
 文献史学の方でモンゴル帝国史の第一人者と言えば杉山正明氏あたりが出てくるだろうが、彼はチンギスの前半生については文献どうしで食い違いが多く、分からないことが多いという理由であまり語らない。一方、本書は当時の自然環境(植物関連の遺物の出土で分かるという)や、埋葬文化(「屈葬」と「伸展葬」)の違いなどから、当時のモンゴル集団の置かれた状況と、その勢力の広がりを再現し、文献と突き合わせることによってチンギス全半生時代のモンゴルの活動を追うことに成功している。
 チンギスの後半生に入ってからも、製鉄所の遺跡や出土する中国製の磁器などから、モンゴルにとっての鉄の重要性や交易の状況にまで話が及ぶ。
 全体の2/3ほどまでがチンギスの一代記である。エピソードや伝説の類も、あとがきで述べられている通り、あえて時折挟まれる。著者のイメージも述べられているところがあり、注意を要するが、同時に本書で楽しめる部分でもある。
 また、最後の第5章ではチンギス・カンをめぐる近現代のなりゆきが語られている。やはりチンギスはスケールの大きい人物だけに扱い方次第で色々な問題もひきおこすようだ。

 正直に言うとこれまで読んだ中央ユーラシア考古学関連の本で冗長気味に感じられたこともあって、やや敬遠しているところがあったのだが、本書では文献史学でわからないことが考古学によって解明されるのだ、ということを分かりやすく書いてあるので今更ながらに新鮮であった。
 今更チンギス・カンか、と言わずに読んでみることをおすすめしたい。
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鉄勒京二

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