近況と最近読んだ本など

 山川の「世界史リブレット人」シリーズがやっと発売になったので、五巻まとめて買ってきました。何故かビスマルクの巻にだけ巻末に刊行予定の一覧がありまして、イスラーム関連はかなり充実している模様。スレイマン1世、サラディン、イブン・ハルドゥーン、ティムールといった定番どころから、レオ・アフリカヌス、ムハンマド・アブドゥフ(アフガーニーとは別立て)、ラシード・アッディーンなどなど知名度は微妙な(逆に言うと我々は喜ぶような)面子まで色々と。
 さらに東の方だと冒頓単于、アルタン、ホンタイジ、安禄山など、北寄りの地域もそれなりに(しかし冒頓で90頁も書くことがあるのだろうか……)。
 逆に中世ヨーロッパは不作で、カール大帝、ノルマンディー公ウィリアム、ウルバヌス2世と十字軍、ジャンヌ・ダルクと百年戦争といった程度。そしてビザンツはユスティニアヌス大帝のみ。
 「日本史リブレット人」は気になる分だけ買ってましたが、これは全巻揃える勢いで買いたいと思います。まあもっとも、そんなに刊行スピードは早くないと思いますが。

 伝記シリーズと言えば、ONE WORLDという出版社がMakers of the Muslim Worldなる叢書を出しています。今年10月予定の新刊がイライジャ・ムハンマド(アメリカの黒人運動組織ネイション・オブ・イスラムの指導者)とモッラー・サドラーだそうで、よくこんなもの出せるなあと。やはり英語で出すと読者層が広いのである程度マイナーでも採算が取れるのでしょうか。
 既刊でもアブドゥルマリク(ウマイヤ朝中興の英主)、後ウマイヤ朝のアブドゥルラフマーン3世、アブー=ヌワース、アフマド・アル=マンスール(スレイマン大帝と同時代のモロッコのサアド朝の名君)、イブン=ハンバル、マアムーン、ハサン・アル=バンナー、カリーム・ハーン・ザンド(ザンド朝初代のシャー)、ムハンマド・アリー、ムアーウィヤ・ブン=アビー=スフヤーン、ナズィーラ・ザイネディン(レバノンのドゥルーズ派教徒の女性で、ムスリムの女性解放運動家の先駆け)などなど、どこに需要があるねんというような人物まで出ています(イブン・トゥールーンも予定にあったものの現状立ち消えの模様? 未確認ですが)。
 読みたい人物もいますが、色々と他にやらねばならぬことがあるのでした。

 以下、最近読んだ本。
 


■宮崎市定『随の煬帝』
 一代記というよりは、煬帝が中心に置いてあるものの随通史のような感じの本です(武川鎮軍閥の説明のために南北朝時代あたりの前史もちょろっとあり)。
 煬帝と言えば随の二代目で暴君としてすこぶる評判が悪い人で、親父の文帝は対照的に名君扱いされることが多かったようですが、宮崎先生はその見方に異を唱え、文帝は一応明君であるとはしつつ、文帝の責任も追求する方向で筆を進めています。が、前王朝の血筋を根絶やしにしたり、創業の功臣を使い捨てにしたりするのは歴代の中国王朝で割とよくあることのような……まあただその結果が事実上二代での滅亡に繋がったのは確かにそうだなあと。
 煬帝の即位後も基本は出来事を時系列順に並べつつ、テーマを決めて若干前後させ、分かりやすく読めるようになっており、本書も宮崎本の例に漏れず、面白くてすぐ読めます。日本の遣隋使にも一章割いてあり、煬帝側から見た遣隋使や、随を中心とした国際秩序の中での日本といった読み方ができて興味深いところ。
 あと、本文の内容とは関係ないんですが、文庫版の解説で礪波先生が「こと中国史に関しては、どの時代の概説でも見事に書ける、と自他ともに許されていた著者(宮崎市定)は、こういった規模の大きい企画の際には、ほかの執筆予定メンバー諸氏を優先的に考慮し、残された巻を引き受けられるのが常」と、さらっととんでもないことを書いてておったまげました。まあ、宮崎市定ほどの人ならそういうこともあるのかもしれませんが……。


■岡田英弘・神田信夫・松村潤『紫禁城の栄光 明・清全史』
 明清概説(なので別に紫禁城について書いた本ではない)。
 最初に出たのは半世紀近く前で、2006年に講談社学術文庫に収録されたという古い本ですが、今なお通用する名著と言って差し支えないでしょう。ページ数は大して多くないですが、視点を偏らせず、朝鮮、チベット、南北モンゴルあたりまでを視野に入れて読みやすくまとめてあります。
 特に、中公の『明清と李朝の時代』ではいまひとつだった清の中国本土外への進出、支配についてはこの本を読むのがおすすめです。さっぱりわかってなかったジューンガルの内情なんかもこれでそれなりに理解できました(本書と同じく学術文庫に収録されている『大清帝国への道』も良い本ですが、ジューンガル関係などはやや弱い)。
 また、明代に対峙した北元についても、比較的通して把握しやすい構成になっています。
 『康煕帝の手紙』を読む前に先に読んでおけばよかったなあ、などと思ったり。おすすめです。なお、共著ですが誰がどこの担当かは明記してありません(大体想像はつきますが)。そこが少し残念。
 それにしても、学術文庫は、本書と『大清帝国への道』と『大清帝国』と、三冊も清代を含む概説書が出てるんですねえ。この調子で頑張って欲しいものです。


■森茂暁『後醍醐天皇――南北朝動乱を彩った覇王』
 南朝研究の森茂暁先生の後醍醐帝本。オーソドックスな伝記ですが、基本的に武家側の動向などは読者の頭に入っているという前提で話が進んでいる感じですね。『建武政権』よりも先にこっちを読んだ方が良かったかもしれません。
 書かれる順序は時代背景、後醍醐帝の表舞台への登場、倒幕志向の形成と展開、やや各論めいて国分寺の掌握、後醍醐政権の特質、そして没後(怨霊を中心に、死後の影響)といったところ。
 相変わらず後宇多帝の政治力の高さが強調されていますが、大覚寺統内の非後宇多流および持明院統の双方を押さえて後醍醐の即位に持っていったのは確かに凄いなあと思わざるを得ず。逆にもとは甥っ子への中継ぎに過ぎなかった後醍醐帝にとって、両統迭立やらを含めて既存の枠組みそのものが敵に見えてきたというのも納得できるところであります。
 あとは、寺社の直接的掌握に一章割いてあるのが特徴です。これは中央の寺社権門から地方の寺社を切り離し、天皇の支配下に組み入れるという目的のもと行われた施策だった模様。史料の残っている長門国分寺、周防国分寺をサンプルにしています。この部分、あえて一章を割く意義は分かりますが、ちょっと小難しいところもあり。
 全体としては大まかな予備知識があることが望ましいとは言え、確かに新書レベルの内容でした。後醍醐帝の伝記は人物叢書でもミネルヴァ日本評伝選でもまだ出てないので、本書が一番手ごろかなと思います。


■バラーズリー『諸国征服史』2巻
 いつ出るんだよと言いながら1巻が出て八ヶ月待ってた諸国征服史第二巻。タイミングがあわなくて高額だったこともあって買えてなかったんですが、やっと買って少しずつ読んでいます。
 例によって地理別なので時系列はかなりぶっ飛んだ配列になっていますが、今回もヌビア兵の弓術の巧みさやら、バグダードの建設やら、バスラ(後の時代にザンギーが一時期総督やってた港町)の建設やら、面白い話題が色々とあります。
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鉄勒京二

Author:鉄勒京二
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