イスラームの都市世界/三浦徹


 世界史リブレット16巻目。ダマスカスやカイロなどを中心に中東の都市世界について扱った本。
 
 都市は市民生活の基盤となる要素で、王朝の政治史とは自ずから流れのはやさの異なる歴史を刻む。本書はその都市世界について図版も多く盛り込みながら書いたもので、都市の構造のみならず、住民とその暮らしぶりや、都市の秩序・ネットワークなどについてもバランスよく盛り込まれている。

 一章「都市の成り立ち」では、都市の建設・立地・人口規模などが、二章「都市の空間」では、都市の施設(宗教施設、水道、城壁、住宅、スークと隊商宿など)がメインに扱われている。これらハード面に対して、三章「住民と暮し」は、市民の意識や生活、各種職業、民族の多様性など、四章「政治権力と社会的ネットワーク」は、都市の上から、下から両方の統治システムについて書かれ、五章「人びとの秩序」では訴訟や騒乱について具体例を交えて描く。
 各テーマそれぞれがやや短い部分もあるが、それは巻末のリストに挙げられた参考文献で補うとして、より詳しいことを知るための入り口としては大変良い本である。

 個人的にはスークについてと、手工業者と職人についての記述が面白かった。スークの業種の一覧が載っており、どんなどんな店が出ていたのかがよくわかる。また、職人たちのさまざまな協業経営形態や、同業組合(経済上の利益を優先して同一の組合に複数の宗教の信徒がいたこともあるという)なども興味深い。

 最近は「イスラーム世界」という枠組みが果たして有効かどうか議論があるが、本書は著者が断っている通り、ダマスカスとカイロを中心としており、その部分について気をつけて読めば、十分良著と呼ぶに足る本である。
プロフィール

鉄勒京二

Author:鉄勒京二
当ブログは一介の歴史好きが読んだ本を紹介したり、書いた文章を公開したりするための場です。執筆記事は西アジア史関係が多いですが、読書は西アジアにこだわらず地域・時代を広く浅く扱っています。
当ブログの内容を雑誌・書籍等にご利用されたい場合はご一報下さい。
管理人への連絡は掲示板か拍手でどうぞ。

検索フォーム
カテゴリ
リンク
アクセスカウンター
月別アーカイブ