アレクサンドロス大王/澤田典子


 世界史リブレット人の一冊。アケメネス朝を滅ぼし、インドにまで至ったマケドニア王アレクサンドロス3世の評伝。
 
 アレクサンドロス研究と言えば、不勉強なため森谷公俊氏くらいしか知らなかったのだが、本書の著者の澤田典子氏は古典期に関する著作が多い方のようである。
 アレクサンドロスも評伝の多い人物である。しかも、史料は事実上5つの文献に限られており(ディオドロス『歴史叢書』、ポンペイウス・トグロス『フィリポス史』、クルティウス『アレクサンドロス大王伝』、プルタルコス『対比列伝』、アリアノス『アレクサンドロス大王東征記』)、論じるのはなかなか難しい(最近は考古学の成果を盛り込んだ研究もあるようだが)。本書は、三分の一をアレクサンドロスの生涯の一般的な概説に当てたあと、残り三分の一づつをフィリッポスとアレクサンドロスの父子関係及び、後世のアレクサンドロスに対するイメージの変遷に充てている。

 アレクサンドロスの父親フィリッポスは有能な人物で、アレクサンドロスの東方遠征が(その死後最終的に瓦解したとは言え)成功したのは、フィリッポスの残した遺産があったからだと著者は述べる。偉大な父の存在は、アレクサンドロスにとってのコンプレックスであり、ゆえにアレクサンドロスにとって父は乗り越えるべきライバルであって、彼が飽くなき東方遠征を行ったのは、父を越えたい一念があったからであろうと推論している。傍証はいくつかあるものの、これを完全に証明しようとするのは無理だろう。が、それはそれとして、面白い解釈である。

 次に、アレクサンドロスが後世にどう書かれ、あるいは描かれたかという視点についての頁が割かれる(ちなみにこのテーマに関しては、アラビア語・ペルシア語文献に現れるアレクサンドロスのイメージを扱った山中由里子氏の『アレクサンドロス変相』という浩瀚な研究書がある)。話は生前にアレクサンドロス自信が自分を演出したところからはじまって、中世のアレクサンドロス・ロマンス、ハリウッド映画、さらに研究者たちのアレクサンドロス観や、ギリシアとマケドニアのアレクサンドロスの奪い合いにまで及ぶ(アレクサンドロスの故郷は現在のギリシア領であり、マケドニアがその国名を名乗った時、ギリシアは猛反発した)。
 アレクサンドロスに限った話ではないのだろうが、世界史上稀有な人物であるだけに、アレクサンドロスをどう見るかという問題には時代性が大きく反映されるようである。

 以上のように、面白い着眼点からアレクサンドロスを論じており、アレクサンドロスに詳しい人でも一読の価値があるだろう。
プロフィール

鉄勒京二

Author:鉄勒京二
当ブログは一介の歴史好きが読んだ本を紹介したり、書いた文章を公開したりするための場です。執筆記事は西アジア史関係が多いですが、読書は西アジアにこだわらず地域・時代を広く浅く扱っています。
当ブログの内容を雑誌・書籍等にご利用されたい場合はご一報下さい。
管理人への連絡は掲示板か拍手でどうぞ。

検索フォーム
カテゴリ
リンク
アクセスカウンター
月別アーカイブ