蒼き狼の血脈/小前亮


 モンゴル帝国物としては珍しく、チンギスやフビライではなく、西のジュチ・ウルスの当主でチンギスの孫のバトゥを主人公としている。時代としては「蒼き狼/井上靖」と、「復讐、そして栄光/赤羽堯」の丁度間を埋める格好となる。
 バトゥは「賢明なる王<サイン・カン>」と呼ばれた、ジュチウルス初期の名君だ。東欧を席巻したモンゴル軍の司令官として知られる。
 その血ゆえに(詳しくは5/21の記事参照)大ハーンの位を目指すことはせず、モンゴル帝国内においては親友にして盟友モンケの支持に徹した。
 一方で、自領においてはひたすら西への拡大を目指し、父の思いを遂げようとする。
 ルーシではノヴゴロド公アレクサンドル(セルゲイ・エイゼンシュテインの映画で有名。ネフスキーの名で知られる中世ロシアの英雄)の臣従を取り付ける。アレクサンドルの妹アガフィヤはバトゥのもとへ使者として送られ……。

 というような内容。

 目の付け所はツボだったし、バイバルスに出番があること、アレクサンドルがしっかりとキャラ立ちしているところ、この二つも嬉しい。しかし、この作者の特徴らしいのだが、当の主役であるはずのバトゥの掘り下げが浅く、狂言回し以上の役割があまり与えられていないのが気にはなる。よって自信を持って万人にお勧めする、ということはできない。が、しかし、アレクサンドルやコチャン、ベーラ四世など、この時代の人物が好きな人にはなかなか得難い小説であることも確かだと思われる。

 ベルケとフラグ間の雰囲気など、後のジュチ・ウルスとフレグ・ウルスの対立を示唆しているようでもあり、また作者が「初めてのモンゴルものです」と言っているので、今後に期待できるかもしれない。願わくば、ジャラールッディーンかバイバルスが大活躍する小説が読みたいものである。

章立て


一章 長子軍
二章 大カアンの闇
三章 氷雪の平原
四章 西へ行く者、東へ帰る者
五章 ドナウを渡る風
六章 クリルタイ
七章 金色の天涯
プロフィール

鉄勒京二

Author:鉄勒京二
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