孔子/高木智見


 世界史リブレット人の一冊。孔子を扱う。
 
 ついつい忘れがちだが、孔子は春秋時代の人で、春秋時代と言えば諸国が戦争に明け暮れていた時代である。すると、孔子も望む望まざるとに関わらず戦争に直面せざるを得なかったわけで、本書は戦争の時代の中の孔子と「仁」(著者は「仁」を「人を人として扱い、愛し思いやる態度」としている)を論じている。

 浅学にして知らなかったのだが、孔子自身、武芸に長けていたらしい(そう言えば、孔子とよく比較されるソクラテスにも従軍経験があった)。
 当時、戦争に身を投じる戦士は社会の主人公であり、君主自ら最前線に出て戦うことが望ましいとされるなど、戦士の価値観が大きく幅を利かせていた。孔子もまたそうした戦士の一人であった。
 まず、そのことを述べ、当時の戦争の模様に頁を割く。何が孔子と関係があるのだろうと最初は思うが、著者は戦争の中で相手を尊重する「軍礼」の存在を指摘する。これは、窮地にある敵、脆弱な敵、負傷して戦意のない敵、喪中の敵などには攻撃を控え、原則として攻撃は交互に行い、さらに敵に対しても勇気と武芸が格別であれば敬意を払う、といった「仁」に通じる思想である。これは、当時の戦士たちが封建制の仕組みや先祖観念から育んだ平等意識が基底にあるようだ。
 しかし、徐々に社会の様相が変わって農民が戦争に駆り出されるようになり、各国が富国強兵を進め戦争が大規模になるにつれて古くからの戦士の価値観は失われてゆく。著者はまさにその軍礼が失われてゆこうとする時期に孔子が「仁」の思想を主張したのだとする。
 要するに、本書を読めば「戦争の時代における社会の変化の中での孔子の思想」を理解することができるというわけである。

 本書は孔子の思想あるいは生涯の全体を述べるものではなく、軍事の記述が多いといういささか異色の感がある本ではあるが、読みやすく面白かった。また、春秋時代の軍と戦争についてそれなりに詳しいので、そちらに関心のある向きにもお薦めである。
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鉄勒京二

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