近況と最近読んだ本など

 6月下旬に世界史リブレット人シリーズの新刊が出るようですが、今回は安禄山とド・ゴールだそうです。この調子で順調に出版していってもらいたいものです。頑張れ著者陣&山川出版社!
 なお、今回読んだ本は源平合戦~鎌倉時代が中心。ここから南北朝までつなげていきたいので、次は蒙古襲来前後を攻めて行きたい所存。

 以下、最近読んだ本。
 


■高橋一樹『東国武士団と鎌倉幕府』
 だいぶ長いこと積んでた動乱の東国史シリーズを再度読み始めました。この巻は治承の挙兵~奥羽合戦~承久の乱始末あたりまで。
 治承の挙兵は関東の頼朝・信濃の義仲・甲斐の信義(信玄の先祖で甲斐源氏のリーダー)の三つの勢力をそれぞれ別個に並列させる形で書いてあって、頼朝だけに視点が偏っていなかったり、また東国史シリーズなので当たり前とは言え、義経と範頼が平氏を討つために征西してる時に頼朝が何をやっていたのかに頁が割いてあったり、平家物語と重なる視点で叙述を行なっている本とは一風違った著作になっています。
 頼朝の没後、執権政治の確立までの諸事件はなかなかややこしいんですが(要するに北条氏が有力武士団を排除して独裁を固めていく過程なわけではあるものの、個別の事件はなかなか覚えにくい)、この本で大分把握できた感じがします。後は、大江広元と北条義時の動きが割ととらえやすい書き方になっているので、この二人のキャラクターはなんとなくつかめてきたかなあと。
 また、横糸として交通体系に注目しているのも特徴で、古代の幹線道路から少しずつ経路の変化などが起こっていることが記してあります。ただ、これはある程度地理が頭に入っていないと難しい気が。

 ところでこれまで月一で出てきていたこのシリーズ、最終配本の5巻『鎌倉府と室町幕府』は慣行時期が未定のようです。6巻7巻は5巻読んでからにしようと思ってるんですが、さて。


■安田元久『北条義時』
 義時がどういう人物なのかなんとなく分かってきた気がするので、がっちり固めるためにおなじみ人物叢書の義時の巻を読みました。義時と言えば前に細川重男先生の『北条氏と鎌倉幕府』を読んだ時の「もう帰っていいですか?」と、親父の時政にハメられて畠山合戦で友人の畠山重忠を結果的に殺すことになって悲憤してるイメージが強かったんですが、この本の義時は手腕的な意味では頼朝の正統派後継者(頼朝と義時のビジョンは違ったでしょうが)として書かれていて、安田先生の義時像と細川先生の義時像の違いを面白く読むことができました。それぞれが矛盾するわけではないものの、エピソードの持つ性質をどう表現するかで印象がこうも異なるのかと驚くことしきりです。
 人物叢書はあまり当たり外れの無いシリーズではあるものの、それでも読みやすい本と読みにくい本の差はありますが、本書は読みやすい部類に入るかと思います。頼朝の挙兵に付き合った時のことや、範頼の征西に従軍した時のこと(おそらく軍政家として範頼の有力な助力者であっただろうというようなことを安田先生は述べています)など関連史料の少ない義時の前半生についても割合詳しく、また公武の対立から承久の変に至るまでの成り行きなどもすっきり整理されています。
 義時の生きた時代は頼朝の挙兵から、執権政治の開始までの時代に当たるので、単に義時個人に興味がある人のみならず頼朝死後の鎌倉幕府のことがよくわからない人も本書を読むといいのではないでしょうか。


■貫達人『畠山重忠』
 これも人物叢書。つい最近歴懇リバイバルで重刷がかかってたようなので、義時とほぼ同時代の畠山重忠の本も。私の世代ではあんまり馴染みのない人物ですが、戦前は初等教育の教科書にもよく顔を出してたようで。
 とは言っても著者が述べている通り史料が少なく、吾妻鏡と軍記物、それに日記類にちょくちょく出てくる程度らしく、美談の類もどこまで信用していいのか微妙なものが多い模様。その辺から信頼出来る記述を拾いつつ、信頼していいのかどうかわからない部分もそうと断りつつ記述するという方針(ただ、一の谷で義経といっしょに逆落しで奇襲をかけた時に、重忠が馬担いで崖を降りたという件についてはそもそも一の谷に重忠がいたはずがないので史実ではないだろう、という結論になっています)。
 余談も少なくない印象で、重忠との対比で悪人設定される経緯があった梶原景時は言うほど悪人じゃないよみたいな話もあり。
 初版が出たのが62年なので古い本ではありますが、逆に新史料でも見つからない限り、これ以上のものを書くのは難しいのかなあと思います。


■上杉和彦『平清盛――「武家の世」を切り開いた政治家』
 日本史リブレット人の清盛の巻。
 平家物語史観の克服というのは言われて久しい気がしますが、この本は清盛を平家物語史観(そして源氏の正統性を担保する歴史書の史観)から解放しつつ、なぜ清盛が「悪役」とされたのか、という点にも少し踏み込んでいます(「朝敵」「仏敵」の二重の悪役要素が強く働いてしまった模様)。
 もっとも、最近でも清盛を論じた本は多いので、このページ数ではあまり深いところには踏み込めず割とオーソドックスな記述に終始している印象が。逆に言うと脱平家物語史観でありながら初心者向けで、私もすっかり忘れていた保元の乱と平治の乱の経緯については再度のおさらいができました。
 この本読んで浮き沈みの激しいというか誰の味方なのかよくわからないというか、ともかく後白河法皇について興味が出てきたのでこのシリーズなり人物叢書なりで読んでみようと思います。


■斉藤利男『奥州藤原三代――北方の覇者から平泉幕府構想へ』
 この間中公新書の『奥州藤原氏』を買ってきたんですが、あの本はある程度知識のある人向けらしく、入門書読んでからにしようと思ったのでこの本を買ってきました。
 東北の日本史の先生って他に比べても郷土愛にあふれていてなおかつそれを隠そうとしない人が多い印象ですが、本書もその例にもれない感じがします。
 内容はもちろんのこと奥州藤原氏三代の事績を書くわけですが、最近の考古学の成果なんかを盛り込んで、都市平泉がどういう理念で設計されていたのか、なんてところにかなりの頁が割いてあります。平泉の、王権のための仏教(日本の中央の仏教)ではなくて仏教それじたいのための仏教を中心とした街づくりは、日本の中央(機内)のそれよりも、より「東アジアのグローバルスタンダード」に準じたものだったという指摘にはなるほどと思うことしきり。どの程度中央からの独立を志向していたのか、という点をこの仏教を中心とした街づくり(そしてくにづくり)に見たり、東夷の首領として自らを位置づける奥州藤原氏の自己意識に見たり、日本の中央から眺めているだけではわからないことがごろごろ出てきて独特の面白さがあります。


■西本昌弘『桓武天皇――造都と征夷を宿命づけられた帝王』
 後白河にしろ後醍醐にしろもともと中継ぎだったはずの天皇って、どギツいキャラクターの持ち主が多いよなあという話があったので、桓武天皇ってどうだったっけと思ったので読んでみました(たぶん日本古代史の本を読むのはこれが初めての気がします)。
 桓武天皇の場合はそもそも親父の光仁天皇が中継ぎの天皇で、光仁の跡継も他戸王という人で、桓武はそもそも即位云々以前の人物だったのが、親父が天皇になって、そこから他戸王を排除して即位するという結構な道筋で天皇になった人だそうで。
 桓武帝は母が渡来系の人で身分が低くそもそも即位にあたって反対意見の出る人だったらしいので、黙っていても人が付いてくるというわけにもいかず、権威の確立がどうしても必要でそのために造都と征夷の二大事業を強力に押し進めたということのようです。
 古代史はまったく詳しくないので迂闊なことは言えないんですが、なんとなく桓武帝には漢の武帝っぽいイメージを持っていたところ、ある面では間違ってなかったかなあと思ったりなんだり。
プロフィール

鉄勒京二

Author:鉄勒京二
当ブログは一介の歴史好きが読んだ本を紹介したり、書いた文章を公開したりするための場です。執筆記事は西アジア史関係が多いですが、読書は西アジアにこだわらず地域・時代を広く浅く扱っています。
当ブログの内容を雑誌・書籍等にご利用されたい場合はご一報下さい。
管理人への連絡は掲示板か拍手でどうぞ。

検索フォーム
カテゴリ
リンク
アクセスカウンター
月別アーカイブ