近況と最近読んだ本など

 世界史リブレット人の新刊ですが、『ド・ゴール』の巻末の一覧で何故かムハンマド・アリーの巻が既刊扱いになっています。近いうちに出るんでしょうか?
 ムハンマド・アリーと言えば、彼の軍事顧問だったフランス人オクターヴ・セーヴ(ムスリム名スレイマン・フランサウィー・パシャ)に興味があるんですが、あんまり資料がないですね。とりあえず牟田口義郎『カイロ』と山口直彦『エジプト近現代史』の関連する箇所は読みなおしてみましたが……。洋書で『ヘディーヴ・イスマーイールの軍隊』という本もあるようですが、高くて手が出ず。さて、どうしたものか。

 あと、なんだか更新していない間に読みおわった本が6冊も溜まっていました。
 というわけで以下最近読んだ本。
 


■永井晋『金沢貞顕』
 人物叢書の鎌倉幕府末期の執権、金沢貞顕の巻。著者は前に紹介した日本史リブレット人の『北条高時と金沢貞顕』と同じ永井先生。
 出版されたのはこっちの方が先なので、『北条高時と~』を読んだ後だと著者の主張として目新しいものはありませんでしたが(強いて言えば兼好と金沢の関係について論じている部分くらい)、厚いので当たり前ですがこちらの方が詳しいです。
 連署に就任する前の六波羅探題時代に貞顕がどういう仕事をしていたかだとか、彼が収集していたもろもろの本が具体的にいつどこで校合されたものだったのかだとか。結構苦労して仕事をしている印象があります。後は彼の人生をひと通り記した後は金沢家の被官人と所領について結構頁が割いてありますが、興味が無いとこの辺は退屈かなあと(資料集あるいは辞書として使うなら便利だと思います)。
 全体を通して貞顕がいかに調整役に徹していたかがよくわかる書き方になっており、つまり逆に言うと彼は自己主張の激しいタイプではなく、その辺のことを考えると伝記として面白く書きにくい人物ではあるのかもしれません。ただ、書状が大量に残っている人なので、深酒して恥じたり息子の結婚式を素直に喜んでたり、高時の病気を心配してたりなどなど、そこから垣間見える個人的な性格なんかは興味深いところです。


■峰岸純夫『新田岩松氏』
 新田でおなじみ峰岸純夫先生の新田岩松氏通史。
 もともと小島町史の中世の関連部分だったものを、改稿したものとのこと。記述は義貞が中心ですが、その前後とそれぞれの庶家の動向にも詳しい本です。扱われる期間は新田荘の成立から戦国時代あたりまで。
 義貞関連は概ね人物叢書の同著者『新田義貞』と変わりませんが、こちらの方がやや言葉選びが砕けたものになっていて読みやすくなっています。義貞死後の舎弟脇屋義助や息子たちの動向についてもひと通りの記述があってありがたいところ。
 また、有力庶家である岩松家については以前、山本隆志先生の『新田義貞』を読んだ時から気になっていたんですが、この本で色々と具体的なことが分かって面白かったです。
 なんだかんだで義貞以前以後が地味なことを考えると、日本史やると絶対に外せない義貞っていう人物は新田一族の中では凄い人だったんだなあなどと思いました。


■川岡勉『山名宗全』
 人物叢書。応仁の乱の西軍大将山名宗全の評伝。兵庫県の人物といえるかどうかはさておき、一応地元にも足あとを残した人物ということで読んでみました。室町時代から戦国時代への転換を引き起こした重要人物(のうちの一人)であるにも関わらず山名宗全の伝記は案外数がないようで、人物叢書で出たのは幸いと言うべきなのでしょう。
 ひとり宗全の事績のみならず、室町時代の幕府―守護体制がいかに戦国時代の地域国家群の乱立へと向かっていったか(嘉吉の乱を切っ掛けにそれまで守護の地位を担保していた将軍の意志が不在となる状況下で、領国の支配を実力で行わねばならなくなった)がよく分かる書き方になっていて、大変勉強になりました。
 宗全は既存の秩序をぶち壊す腕っ節の強い人で、史実かどうかはさておき時勢を先例に優先させるべきとする「凡そ例といふ文字をば向後は時といふ文字にかへて御心えあるべし」という言葉が宗全のものとして伝えられているそうで、実際に剛気にあふれる人物だったようで、さらに「戦闘能力の高さ」も本書の中で強調されています。
 また、嘉吉の乱や御家再興の動きと関連して赤松家の動向が割とよく分かるのも収穫でした。


■遠藤基郎『後白河上皇――中世を招いた奇妙な「暗主」』
 日本史リブレット人の一冊。清盛の巻を読んで後白河帝も気になったのでこの本を。頼朝が後白河帝を「日本一の大天狗」と評した逸話がありますが、その後白河帝がどんな人物だったのか、なんとなく分かる本です。必ずしも時系列順に出来事を追っていくわけではなく、各論ごとにまとめて記述していく方針。
 今様狂いだったのは有名ですが、浮き沈みが激しい人生を送っている割に、なんだかんだで生きることを楽しんでいる節があるように思います。


■関幸彦『その後の東国武士団――源平合戦以後』
 タイトルとおりの本。著者自身が言うとおり新しい見識や論を提出したりはしていませんが、源平合戦以後の東国史の概略と、それぞれの武士団のやや簡略的な通史をまとめたものになっています。ぶっちゃけそう多くないページ数で扱う武士団が多いこともあって(佐竹、新田、畠山、三浦といった有名どころから大掾、小田、江戸なんてところまで)、通読しても全体を通じて何か面白みを得られる本ではありませんが(個別の事実関係で面白いものはもちろんあります)、概略の確認と、それぞれの武士団の事績を調べるのに辞書的に使うとすこぶる便利かと思われます。
 個人的には甲斐武田の源平合戦以後戦国以前の流れを把握できたのが収穫だったかなと思います(源平合戦では頼朝・義仲と並ぶ第三極で、戦国時代には武田信玄という超有名人が出るわけですが、南北朝時代の武田はとても影が薄い)。


■矢野隆『西海の虎――清正を破った男』
 何か頭使わずに読める歴史小説が読みたいなあと思ったので戦国もので2000円以下のソフトカバーという定番どころから適当に選んでみました(この体裁でこの価格帯の戦国ものは軽めで読みやすいものが多い印象です)。
 本書は木山弾正という人物が主人公。私が知らなかっただけで、加藤清正と一騎打ちしたという話は割と有名なんですかね?
 主人公は家族や身近な人を守ることと武士の誇りとで葛藤しているわけですが、武士の誇りの方の描写がちょっと弱かったかなあと。後から読み返すと記述がないわけではないんですが今ひとつ効果的でないというか。
 あと、加藤清正について(というか戦国時代の人物全般について)は詳しくないんですが、こういうひたすら悪役な清正像っていうのは、戦国時代ファンの間ではどう評価されるのでしょうか。私はこれはこれでいいんじゃないかと思ってはいますが、さて。
 戦闘描写も結構魅せるものがあって、ストーリーの緩急のつけかたもうまいので、全体的にはそこそこ面白かったかなと思います。
 
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鉄勒京二

Author:鉄勒京二
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